食べちゃいたい

「よう、こんな夜遅くにあんたみたいな可愛子ちゃん一人で出掛けちゃ危ないぜ? どっかのわるーい狼に食べられるぞ。ガオー」

来ると思っていた。絶対来てくれるとわかっていた。
頭上を見上げるとギザギザの歯を見せて狼のように笑う彼は満月の光に当てられて、妖艶で美しかった。

「ふふふ、こんばんはソウルくん。お久し振りだね」
「ああ、久し振りなまえ」

そう言って微笑み掛けると満足したように笑って両手をポケットに突っ込んで飛び降りてくる。

私はデスシティに住んでいる訳ではないからここにはたまにしか現れない。それも決まって満月。
何故わざわざデスシティに来るのか。何故満月の夜限定なのか。初めは彼にも色々問われた。だけどそれは好きだから。何がとは言わない。絶対内緒。そうまでして見たいものがここにはあるのだ。

「少し合わない間に変わった?」
「どのへんが?」
「ちょっと背が伸びた」
「成長期だからな」
「ちょっと大人っぽくもなった」
「COOLだろ?」

ソウルくんが好きだ。満月のデスシティも好きだ。この日にしか私は姿を表すことができない。
私のソウルプロテクトは上手く機能してくれないから。
こんな夜にしか仕事をしてくれないソウルプロテクトを持っている私。死神のいるこの街に出向くなんて死にに行くようなものだ。だけど、それでも好きなの。言葉には出来ない。
だって私、魔女だもん。

「そういうあんたはなにも変わんねえな」
「うーん、魔女だから?」
「ククッ、そうかもな」
「あまりのんびりしてると朝がきちゃう。そろそろデスサイズ様に狩られちゃうかしら。ねえソウルくん?」
「その前に狼に喰われるかもな。ガブリとよ」
「私、人は食べないよ?」
「俺のことだよ」

そう言って笑って私に首元にかぶりついた。チクリとした痛み。何をされたかすぐわかった。

「私は食べるプロですけど?」
「やられたらやり返す?」
「やられる前にやり返す。倍返しでね」
「ぷはっ、なんだそりゃ」

静まり返ったデスシティにキラキラと光る満月の光はとても綺麗だ。