答え合わせ

「私は……貴方の仲間も、兄も、殺した。全部奪った。それなのに! どうして貴方は私を怨まない!? 大切なものを全て壊した私が憎くないの!? 大切なものを全て壊した私を! どうして壊さない……!?」

組み敷いた男の青いシャツに赤い液がジワリとにじむ。それと同じように私の目からも涙がジワリと零れ落ちた。それは彼が生み出した赤黒いそれの上に落ちて、溶けて消えた。心臓を貫いた槍に力を込めて握る。
どうして涙が止まらない? 何を今更、悲しむ必要があっただろうか。この世界だけでなく、多くの世界を、人を破壊してきた。だけど悲しくなんてなかった。私の世界のためだ。なのに、彼を、ルドガーだけなんでこんなに泣く必要があっただろうか。

「っ答えてルドガー・ウィル・クルスニク!!」

最期に答えが知りたかった。私が涙を零す理由もわかるような気がした。突き付けた槍の先は見慣れたターゲット。

「……ふ……っない、しょ」

そして世界が壊れる音がした。

驚いた。私は彼、ルドガー・ウィル・クルスニクがこんな人間だと思っていなかったから。私が彼に対する思いは、たった一人の兄の為に仲間を捨てる残酷な人。それなのに、あの世界の彼はその兄を殺した私を殺さなかった。その結果最期は自分が殺された。殺されに来たのかも、しれない。
しかもそれだけでなく、私を怨む事もなくただ優しく微笑んだ。その笑みを見て、私は悟ったのだけれど。それが正しいかまではわからない。答えを合わせる術は既に自身の手で破壊してしまった。
……いや、本当はまだ回答はある、かもしれない。
あの分史世界と正史世界はあまり変わりがなかった。

「分史世界の破壊を確認した。ご苦労だったね」
「ありがとうございます……ひとつ、伺いたい事があるのですが……ヴィクトル社長」
「なんだい?」
「貴方は……」

口を開いて、やめた。馬鹿げていると思ったから。

「いえ、なんでもありません。それでは、失礼致します」

知ったところでどうにもならないことをわかっている。それに第一、彼はもうルドガーではない。ルドガー・ウィル・クルスニクは死んだんだ。
……そうだ。聞くのが、怖くなったのかもしれない。そう笑えばいい。

「ひとつヒントをあげようか」
「え?」
「君の求めている答えのね」
「……」

そう言って背もたれにもたれかけ、社長椅子をギイと鳴らす。ニヒルな笑みは仮面によく合う。

「私は君と、出会った事があるんだ。それも、ずっと前に」

結局謎は深まった。だけどちょっとだけわかったことがある。私が求めている答えは、答え合わせをしたら駄目な、そんな気がする。