幸せの証

※分子もなにもない世界。パロディです。

「兄さん、ヴィクトル兄さん!」
「んー、……わかっている、だからあとごふん……」
「そんな事言って。エルに叱られるぞ」
「……すう」
「ったく……」

俺には二人の兄さんがいる。
一人はユリウス兄さん。腹違いの兄だけど、俺を孤児院から引き取ってくれてそれからずっと育ててくれた大切な兄。なんとエレンピオス一の企業と言っても過言ではないクランスピア社のトップエージェントで、分子対策室室長、を務めているらしい。周りから見たら物腰も柔らかく優しい性格をしているし、仕事も完璧にこなすし、そりゃあ出来る自慢の兄だ。が、周りが囃したてるほど兄さんは完璧ではない。トマトとかルルが関わると特に。ちょっと抜けてるし。
そしてもう一人がヴィクトル、兄さん。彼もクランスピア社で務めている。それも、副社長として。ヴィクトル兄さんの方はあまり兄という感じがしない。間違いなく、歳はユリウス兄さんよりも上なのだが、どうも自分を見ている様だ。あ、あと前世は悪魔か魔王だと思う。ちなみに俺と血も繋がってる。

「エル、エルもそろそろ起きとけよ」
「んー……」
「じゃないとエルのサラダだけトマト多めにするからな」
「んー……めがねのおじさんにあげるからいいですよー、だ……」
「あ、こら」

そしてヴィクトル兄さんの隣の小さな山も揺する。彼女はエル。ヴィクトル兄さんの大事な一人娘で、俺の姪。……俺叔父さんなんだよな。

「まったく、誰も起きないじゃないか」
「……ルドガー今何時だ」
「4時だよ」
「………」

あ、これまでにないくらい不機嫌な顔をした。起こせって言ったの誰だよ。確かに、昨日も夜中帰ってきたけども。ヴィクトル兄さんは顔に出やすい。ちなみに俺も良く言われる。

「遊園地。行くんだろ?」
「……貴様に言われなくとも分かっている」

小さく溜息を吐きながら布団から這い出る三十路を見てくすりと笑ってしまった。なんと言うか、この人は本当に親馬鹿だと思う。

「おはよルドガー! かみのけ結んで!」
「はいはい、おはよう。此処座って」
「エル、今日は私が可愛くしてあげよう。おいで」
「え? いいよ、パパはじぶんのシタクして!」
「…………」
「エ、エルは早く準備して遊園地行きたいんだよな!?」
「ち、ちがいますー! エルこどもじゃないから、たのしみだとか、そんなんじゃないし! 早くいった方がいっぱい乗れると思っただけですー!」