夢を叶えて

それは夢の三段アイスクリームを買った帰り道のこと。

「結婚しよう」

学生鞄をリュックのように背負い、右手に持った三段重ねのアイスを食べ歩いているときだった。
気分は最高。今にもスキップしそうな勢いで帰宅しているとき。すれ違ったリーマンが私の左手を掴みそう言ってきたのだ。

「は……?」
「あ、悪い……えっと、覚えてないのか? でもそういう奴もいるみたいで、後々思い出すから大丈夫だ」
「え……何を……?」
「俺だよ、エレンだ」
「えれん……? ごめんなさい、記憶にないけど」
「約束したよな。また、何処かで会えたら結婚しようって」
「は? え、いや、意味がわからないです」

気持ち悪い。腕を振りほどこうにも相手は成人男性。力の差は誰がどう見てもわかる。

「っ離して!」
「はは、弱くなったよな」
「意味わかんない! 警察呼ぶから!」
「……マジで覚えてないんだな」

寂しそうに目を細め緩やかに腕を離す。
今だ、今なのに。逃げようにも私の腕は動いてくれない。

「ミカサも、アルミンも、ジャンもライナーもペトラさんも兵長も……皆いるのに……お前だけなんでいないんだよ……」
「いみ……わかんないよ……」

ミカサもアルミンも、全部全部聞いたことのない名前だ。意味がわからない。気持ち悪い。なのに目の前の彼が可哀想に見えてくるのはどうしてだろう。初対面の奴なんかに、同情したの? こんな、気持ち悪い電波を?
私も、何処か思うところがあるんじゃないだろうか、と考えたところで、やめた。
気持ち悪い。そう思っている自分もどうかしている。厨二病かなにかか。

「頭おかしいんじゃないの!」

そう言い捨てて私はアイスが落ちるのも構わず走って逃げた。

「ねえ、エレン」
「おいもう喋るなよ!」
「私ね、結婚、するの夢で……」
「今、助けが来るから!」
「こんな世界だから、叶わないってわかってた……」
「絶対、もう、来るから!」
「だからね、エレン……また何処かで会えたら、夢叶えて欲しいな……」
「馬鹿、なまえは、まだ生きてるだろ!?」
「もし、生まれ変わったら、結婚してくれる……?」
「んなもん、壁内に帰ったらすぐにでも式あげてやるから!!」
「今度生きる世界は……平和だと、いいね……」
「だから、生きろよっ、死ぬなよ……!」

知らない、知らない。
数日前見た夢なんか私はもう覚えてなんかいない。