忘れ物

震える手が大好きなあの子の名前に投票する。これが夢だったらどんなに良かったか。夢ならどうか覚めろ、覚めてくれ。

「ありがとう、日向くん」
「何が、だよ……」
「私を殺してくれて」

ねっとりと笑うあいつは俺の気持ちなんてさっぱり知らないんだろう。嫌味かよ。違う、俺は、殺してない。

「日向くんの一票がなかったら私は死んでなかったかも。だから、ありがとね」

なんでお礼なんて。
思いを込めて睨んでみるが、嫌味ったらしい言葉の反面表情は穏やかなものだった。

「日向くん、最後に一つだけいい?」
「やめろよ、出たら、教えて欲しい」
「あはっ、もう死んじゃうって。誰かさんのせいでさー。……だから、ねえ、お願い。聞いて? あのね、私さ、日向くんが好きだよ」

なんで、そんなフラグ立ててお前は笑ってられるんだよ。悲しみなんてもんじゃない、それなんか越えて、怒りがふつふつと湧き上がってくる。

「行くなよ」
「うん、スッキリ」
「なあ」
「じゃあね、日向くん」
「みょうじ」
「またね」
「頼むから、」

なんでお前は何もかもを残して行くんだよ。せめて俺もと言わせてくれ。

「日向くん、早くこっち来て?」