黒曜編 | ナノ



一人の女の子がいた




見知らぬ街並みで






一人たたずんで泣いている女の子








「うっ…うっ…うわぁあん」



街の暗い道で一人泣いている少女がいた。

人通りは少なく、少女のほかには誰もいない。


なぜ泣いているのか、それはついさっきの出来事。






「ねぇねぇ遊ぼ!」



いつもの明るい昼。

その少女はいつも遊んでいる友達と遊ぼうとしていた、だけど…。




「…もう杏ちゃんとは遊ばない」

「え…?なんで?」



その友達からの反応はいつもとは違った。

いつもは笑っていいよって言ってくれて遊ぶのに。


今日は違った。


杏と呼ばれる少女は眉を下げて苦しそうな表情をする。




「なんで…?」

「…っ、いいからもう杏ちゃんとは遊びたくないの!」

「っ…私なにかした?」



杏はそう言って友達に近づく。
目がうるっとなっていて涙を流しそうになりながら。


その時。



「…っいたいっ!」

「杏ちゃん!?」



突然、杏が頭を抱えて苦しみ出した。

どうやら激しい頭痛が杏を襲っているようだ。


友達はそんな杏を見て驚いて近づこうする。
だけど何かを思い出したようにして近づくのをやめた。




「とにかく…もう杏ちゃんとは遊ばないから!…ばいばい!」



そしていつも遊んでいた友達は逃げるように去っていったのだ。




「杏ちゃん…っ、ごめんね…!」



苦しそうに泣きながらその子が走り去って行ったことは、誰も知らない。








友達が去って行き10分弱、杏の頭痛は治まったようだ。
頭に抱えていた手を下ろし、とぼとぼと人通りのない暗い道を歩く。


そして杏の気持ちは治まっていなかった。





「うっ…なんで…なんでよぉおっ…」



杏の目からどんどん涙が溢れ出る。

さっきとは違う悲痛な表情を浮かべた。





なんで遊んでくれなかったのか




なんで自分から離れていったのか




分からずにただ、辛くて悲しくて声をあげて泣いていた




「うっ…うっ…」



自分のことを避けたのはあの友達だけじゃない。

そのあとすれ違ったいつもお世話してくれた近所の人や他の友達、みんなが杏のことを避けていったのだ。

頭痛で苦しかったとはいえ、悲しい顔をして自分から避けていく姿はちゃんと覚えていた。





「あ、杏ちゃんだ!おーい、杏ちゃん!」

「だめだよ!もう私達は杏ちゃんと遊べないんだよ…!」

「あ…そっか…」






なんでみんな私からにげるの?



いつも遊んでくれてたのに






「…杏ちゃん、ごめんね…!
おばさんね、もう杏ちゃんとはお話できないの」






どうして私からにげるの?



いつも私とお話してくれたのに





なんで…





「うわぁぁあんっ!なんでよぉおっ…!」




杏は叫びに近い泣き声で泣き続ける。

暗く狭いその道には杏の泣き声が響きわたった。


…と、その時。




「…どうしたんですか?」




一人の少年が杏に声をかけたのだ。





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