恋、なんて | ナノ

「僕とお見合いをするか、風紀財団で秘書をするか選んでよ」


「は…?」



何言ってるの雲雀くん。
私はその意味のわからない雲雀くんの問いかけに答えられない。


何、お見合いか秘書…?
しかも風紀財団でって…

つまり雲雀くんと関わらなきゃいけないのが必然であって。




「…何言ってるの、どっちも嫌」



でもそんな条件、飲むわけなくて。

私は雲雀くんから目線を外してやっとのことでそう言うけれど、雲雀くんは即答した。




「無理」

「、は」



雲雀くんは声色を低くしたままそう言った。

え、何、即拒否?

雲雀くんらしい…じゃなくて。




「無理なのはこっちの台詞。雲雀くん、分かってるでしょ?私は…」



あなたと関わりたくないの。


そう言おうとしたけれど、言うことができなかった。

それより先に雲雀くんが言葉を発したから。




「…ふーん、そんなこと言っていいの?」

「え…?」



しかもとても理不尽な理由を。



「君が選ばないなら君の父親の会社、倒産させるから」

「は…!?」



私はそんな雲雀くんの言葉に思わず大声をあげてしまった。

え、何、お父さんの会社を倒産…?
意味が分からない、なんでお父さんまで巻き込むの?


訳の分からないことを言われて私の中に怒りの感情が湧いてきた。
だけどそれ以上に、なぜか雲雀くんの方が怒っているように見えたんだ。



「早く決めてくれない?言っとくけど冗談なんかじゃないから」



ほら、だって明らかに声が苛ついてる。

それに分かりたくなくても分かってる。
雲雀くんはこんな冗談は言わない。

声も、目も本気だもの。




「………」




私は再び黙り込む。

なんでこんな状況になってるんだ。
怒りたいのは私なのに。

そうは思っても私は感じでいた。


私が秘書かお見合いかを決めないと、この状況は変わらないと。


そう感じた私は声を低くして雲雀くんに問う。




「…いつまで?」

「は?」

「その条件を飲んだとして、私はいつまで雲雀くんと関わればいいの?」



きっと今の私の声は荒いだろう。
苛つきながら雲雀くんに聞いているからだ。

そんな私の質問に雲雀くんは一旦黙って静かに答えた。



「期限なんかないよ、僕はもう…


君を離す気なんてないから」


「…!」




静かに答える雲雀くん。
その声色は静かだけど、怒りや悲しみと…優しさが含まれてるように聞こえた。

その声とその言葉に私は何も言えない。
それ以上に戸惑ってしまう。


どうして…そんなこと言うの、雲雀くん。

また裏切る気?


でも私は気にしていないかのように、何も聞いていないかのように流して答えた。



「…はは、何それ。雲雀くんって本当勝手」

「………」

「いいよ、雲雀くん。風紀財団の秘書、やればいいんでしょ?それならやる」



そして私は決めた。

やりたくないけど、雲雀くんと関わりたくないけど。


こうでも言わなきゃ埒があかないって分かったから。




「…そう、秘書にするんだ。
じゃあ手続きは僕がしておくから明日から風紀財団に来て」

「………」



雲雀くんからは嬉しそうな、残念そうな声。

表情は無表情。



「………」



…ああ、引き受けちゃったんだ、私。

これから、雲雀くんと関わらなきゃいけないのか。

沈黙になって改めてそれを感じた。


私はそれに対して嫌悪と少し複雑な何かを感じている。
それが何か、なんて考えたくない。




「…雲雀くん」



そして私は意識的に雲雀くんの名を呼んだ。


ねぇ、雲雀くん





「雲雀くんってほんっと最低」



「最低だよ、雲雀くん」




あの時と時が重なる。

“最低“とあなたに送った言葉。



そう、最低だよ雲雀くん。

なんでもかんでも自分で決めて、信じてたら裏切って。


だからね、雲雀くん。



ーーー5年前みたいに私はならないよ




私はそんな想いを持ってこの場を去る。

ちらりと見えた雲雀くんの表情が歪んでいたけれど気にしないフリをした。




ああ、これはなんの運命なのか。


5年前に関わった関わりたくない相手。



そんな人の…雲雀くんの秘書になってしまったんだ。




改めて感じたそのことに、私はため息をこぼさずにはいられなかった。




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