日常編 | ナノ



コンコン


「雲雀さん、柚木杏です」



応接室に向かった私はノックをして応接室にいる彼、雲雀さんの返答を待つ。

雲雀さんの返答は意外と早かった。




「やぁ、杏かい。入りなよ」

「失礼します」



入ってみるとバレンタインの特有の香り。

不思議に思い雲雀さんの方を見てみると近くには大量のチョコレートが大きい袋に包まれていた。




「雲雀さん、それ…」



何故だかすごく気になってしまったそれ。

まず第一声がそのことになってしまった私に雲雀さんは何事もなさそうに淡々と答えた。



「ああ、学校にこんなもの持ってくるなんて校則違反だからね。
見つけた限り没収させてもらったよ」

「(んなーっ!!)」



…そうだ、雲雀さんの性格を忘れていた。
彼はこういう人だったよ。

私は無意識にチョコが入っている袋を後ろへと隠した。




「そういえば杏は何しに来たんだい?」

「えっ…いや、その……」



本当は渡そうと思っていたチョコレート。

でも渡したらきっとこの袋の山みたいになってしまうだろう。

そう考えてしまい、黙り込んでいると雲雀さんが近づいてきた。





「何、これ」

「あっ…!」



すると雲雀さんは後ろに隠していたチョコの袋に気付き、私が少しためらっているとなんとその袋を私の手から奪っていったのだ。





「あのっ…それは…」

「……何、これ。まさかとは思うけど君も違反者とは言わないよね?」



あああ…やばい。
雲雀さんは完全に無言になってしまった。

風紀委員なのに校則違反ってもしかして相当やばい…?

いや、でもバレンタインなんだからさ…いいや!言ってしまえ!



「あのっ、私…雲雀さんと風紀委員の皆さんにバレンタインチョコ作ってきました!」



沈黙になる一瞬。

そして雲雀さんの反応は……




「没収」

「なっ!」



一言で片付けられ、簡単に取られてしまったチョコレート。
取り返そうにも雲雀さんの手に渡ってしまえば取り返せない。



「返して下さい!」

「嫌だ。何で風紀委員の君が校則破るのさ」

「う…」



確かにごもっともな言葉を言い返せない私。
そんな私に雲雀さんは言葉を続けた。



「だから君のは没収して僕が貰っておいてあげるよ。
もちろん他の風紀委員の奴らのもね」

「え…?」



一体どういう意味だろうか。
そのまんま解釈すると私のチョコを貰ってくれることになる。

分からずに聞き返すと私が感じた通りの答えが返ってきた。




「だから貰ってあげるよ。

ありがとう、杏」


「…!」




そう言って微笑んだ雲雀さん。

何故だか分からない。
だけど何だかおかしな気持ちになっていた。



今日あげた人達みんな同じようにお礼を言ってくれたのに


何故だか雲雀さんから言われると


少しだけ身体が熱くなる気がする


少しだけ心臓が高まる気がする




…原因なんて分からないけれど








「…あっ、私急いでるのでこれで失礼します!
風紀委員の皆さんにも分けてくださいね、それでは!」




そして思い出したかのように身体の熱さから逃げるかのようにそう言って真っ先に応接室を出て行った私。

雲雀さんはそんな私の行動にポカンとしていたようだけどーー



「クスッ……変な杏」



やがて、出て行った扉を見つめて楽しそうに笑った。






その後私は家に着き、みんなでバレンタインパーティーをしたのだった。



こうしてドタバタとしたバレンタインは幕を閉じたが…




私はまだ知らない。


今日のように雲雀さんと一緒にいると時々変になってしまうこの感情をーー…




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