日常編 | ナノ



次の日


「大変だー!山本が屋上から飛び降りようとしてる!」

「……え?」




一人の男子生徒によって発された言葉は信じられないもの。

教室の誰もが誰もが騒ぎ出し、私は頭の中が真っ白になってしまった。



「あいつ昨日一人居残って野球の練習してて無茶して腕を骨折しちまったらしいんだ」



な、昨日の放課後って…!

私はその言葉を聞いてすぐに屋上に向かった。



「(何やってるの山本くん…無事でいて!)」




昨日の予感が当たるなんて思わなかった。

辛そうな山本くんの表情をちゃんと分かってあげれば良かった。

でも…!



そして屋上に着く。




「山本くん!!」




山本くんはフェンスの前で一人立っていた。
私は山本くんの方に行き、山本くんは私の声に気づいたようだ。




「…山本くん……死ぬなんて絶対だめ!死んだら野球も何もかも出来なくなるんだよ!?
世の中には死にたくなくても死んじゃう人だっているの!山本くんはそれなのに死ぬの!?」

「柚木……」



私が半怒鳴り気味になっていると、入口からクラスのみんながやってきた。
がやがやとしてる中、ツナが一人山本くんの方に出る。

そして山本くんを説得している。




「俺はどうせ死ぬんだったら死ぬ気になってやっておけばよかったって
こんなとこで死ぬのもったいないって…だからお前の気持ちは分からない…ごめん……」




そのツナの言葉にどれだけの人が感動しただろうか。
少なくともこの場にいる全員は絶対だろう。


「じゃっ!」
「待てよ、ツナ」



そしてツナはその場を去ろうとしたが山本くんによって止められてしまった。

しかし山本くんがツナの服の裾を掴んだ反動でフェンスにツナがぶつかって……



「危ないっ!」



フェンスが壊れてしまい、私はとっさにツナの腕を掴んだ。が……




「うわあああぁっ!」

「ぎゃあああああ!」

「嘘おおおおおおっ!」




山本くん、山本くんに掴まれたツナ、ツナを掴んだ私は見事屋上から落ちてしまった。

屋上にいるクラスメートからも悲鳴が聞こえるけどどんどん落ちていく私達。



「(どうしよう!)」



私にはどうすることも出来なくて、目をぎゅっと閉じた。

もう死ぬと思ったから。

しかし…



「空中復活!死ぬ気で杏と山本を助ける!!」



その時、ツナは校舎内のどこかにいたリボーンによって死ぬ気弾を撃たれ、死ぬ気になったのだ。

ツナの死ぬ気のおかげで誰も死ななずにすんだのだ。








「杏、山本!大丈夫か?」

「ああ」

「………」



ツナによって助けられた私達は校舎の近くに座っていた。

私は脱力感が半端なく大きくて言葉が出ない。



「杏?」


返事がなかったからなのかツナは私の顔を覗き込んでいた。

…確かに脱力しすぎて言葉が出ない。
でもそれでも



「…山本くん!もう死ぬなんて絶対言わないで!次言ったりしたら絶対許さないから…!」



山本くんにちゃんと伝えなきゃいけないんだ。
死ぬなんて、簡単に言っていいことじゃない。

この時自分がどんな表情かなんて分からなかった。
ただそれだけを言いたくて、絶対死ぬなんていけないことだって。



「…ごめんな、泣かせて」

「…え?」



そして山本くんに言われて初めて自分が泣いていることに気づいた。
山本くんは悲痛の表情を浮かべている。



「俺、どうかしちまってたな。もう絶対こんなことしないから…!」

「…うん!」



どうやら山本くんはもう大丈夫そうだ。

山本くんがちゃんと分かってくれて良かった…。
ツナも嬉しそうに微笑んでいた。



「あ、そうだ、杏」

「…え?」



いきなり山本くんに名前で呼ばれて驚く私。

え、てか名前…?
さっきまで名字だったから…どうしたんだろう。



「名前で呼んでいいか?俺の事も名前でいいからさっ!」

「う、うん!じゃあ私も武って呼ぶね!」

「おう!」



いきなりでびっくりしたけど名前で呼ばれるのは嫌じゃない、むしろ嬉しい。

それに名前で呼んだ方が仲良くなれるよね。
だから私も武って呼ぶことにした。


…それにしても、武がちゃんと分かってくれてよかったな。


クラスに戻ると、武の自殺騒動を冗談だと思っているみんなが笑顔で武のもとに駆け寄っている。
冗談ではなかったものの、その光景に嬉しくなった私は微笑みながらそれを見ていたのだ。




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