Jump and Defend



 B組の角取チームからハチマキを獲ることに成功し、続けて別の騎馬に迫る。B組、小大チームだ。先程の角取チームに対しては背後からの奇襲だったが、今度はそうはいかない。小大チームも既にこちらに気がついていて、守璃のハチマキを狙っている。

「あっちの騎馬ガタイいいな! “個性”パワー系かな!?」
「わかんないから、まだ距離保って!」
「つっても向こうから来てるけど!」
「じゃあ下がっ…れないか…!」

 後ろからは角取チームが迫っていた。左右には別の騎馬同士が小競り合いをしていて、それを横目に見た飛井が「上しかねえな」と跳びあがる。意図的か偶然かわからないが、まるで誘いこまれたみたいだ。
 跳びあがった瞬間、飛井の脚目掛けて前後から“何か”が飛んでくる。前は液体、後ろは固体。触れれば何が起こるかわからない──が、これを防ぐのが守璃の本分だ。
 飛井の跳躍と同時に展開させた障壁が、前方、後方ともに攻撃を阻む。障壁にぶつかったそれは“個性”由来の攻撃に違いないが、目視しただけでは性質などわからない。せいぜい、液体のほうは粘性が高そうだということくらいだ。それでも、少なくとも障壁によって防げるものだということがわかって、守璃はひそかに安堵した。

「さっすがイージス相澤」
「うるさいよ」

 言い返しながら守璃は体勢を整えた。同時に障壁も造り出し、追撃に備える。
 飛井がサポートアイテムを起動させて宙に浮いたことで、先程までよりもバランスを取るのが難しい。高さは地面からせいぜい1m程度だが、肩車状態の守璃の視点は随分高かった。しかし、さらに高いところをサポートアイテムらしきものを装備した緑谷が飛んでいて、それを爆豪が“個性”を上手く使って追っている。騎馬を離れて一人飛んでいるのはいかがなものだろうと思ったが、テクニカルなのでアリらしい。
 あんな風に追われたら、守璃と飛井のチームでは逃げらるのは難しいだろう。障壁もどの程度まで爆豪の攻撃を耐えられるか。「アレとは当たりたくねーな…」と飛井が小さく感想を洩らした。

「で、どーするよ? ぶっちゃけ滞空時間あんま長くない」
真ん中(ここ)からは抜けたいよね」
「それな。足場くれ」
「跳べる?」
「跳ぶ!」

 手から離れている分 扱いには少し不安があるが、精神状態は障壁の出来に影響してしまう。考えすぎるな。自分に言い聞かせながら飛井の真下に障壁を造り出す。
 守璃が声をかけるより早く、飛井は障壁を踏んで飛び上がった。目の前の騎馬の頭上を軽々と跳び越えていく。跳び越える瞬間、守璃はおおよその着地点と自分達の真下の二ヵ所に障壁を出した。騎馬の頭から飛んできた先程と同じ粘性の液体が、障壁をべっとりと覆い、小大チームに滴り落ちた。小大チームから焦る声が上がる。
 反対に、飛井からは雄叫びが上がった。「っしゃ!」

「なに!?」
「獲った!」

 着地と共に飛井が左手を突き上げる。その拳には小大チームのハチマキが握られていて、守璃は思わず目を見張った。

「いつの間に…!」
「イージスじゃ手ェ届かねーと思って、下降しつつ頑張ってみた! とりあえず一旦距離とるぞ!」
「う、うん!」

 ここまでで早くも7分が経過、A組は緑谷チームを除いてパッとしない。爆豪さえも。そんな実況を右から左へ聞き流しながら、追いかけてくる二組を避けてグラウンドの反対側に跳ぶ。
 手渡されたハチマキを自分の首に巻き、競技場に視線を走らせれば、緑谷チームと轟チームが対峙していた。
 ハチマキを取られてもアウトにならないというルール上、およそ半分の時間が過ぎてなお混戦状態だが、特に緑谷チーム周辺は大乱戦だ。さすが1000万ポイントである。あれさえ獲れればどんな順位からでもトップを奪えるのだから、集中的に狙われるのは当然だった。
 轟チームが緑谷チームに向けて前進する。騎馬は飯田、上鳴、八百万。八百万が何か創っているのが見えて、守璃は叫んだ。

「後方に跳んで! 浮いて!」
「えっ!? おう!」

 守璃が障壁を造り出すのと同時に、上鳴の放電が周囲の騎馬を襲った。複数方向に障壁を張れど、全ての電撃を弾き返すことなど出来ず、完全には防ぎきれない。ビリビリと衝撃が全身を走った。

「これヤバイって! ショートしそう! 頑張っけどっ!」

 飛井の情けない声がした。たしかに高電流の影響を受けてしまったサポートアイテムからは異常な音がしている。しかし、それでもまだ着地するわけにはいかない。
 数秒で良い。
 上鳴の電撃に続いて、轟の氷結が地面を這う。
 あっという間に複数のチームが動きを止められてしまった。

「えげつねー…」

 飛井が呟くように言う。

「避けれて良かったわ。ここからどーする?」
「動くしかないよ。まだポイント足りてない」

 守璃は腕を擦った。両腕が痺れているのは、先程の電撃のせいだけではない。この短時間に高頻度で“個性”を使っていた反動だ。そろそろ限界が近いのかもしれない。
 残り時間はもう5分弱だ。

「アイテムもう使い物にならねーかも!」
「飛井はまだ跳べるよね!?」
「当然! いくぞ!」

 勢いよく跳ねた飛井から振り落とされないように、守璃はその肩を掴んだ。どうしても、腕が重い。

「物間チーム狙いでいいか!?」
「っ、うん! たぶんそれ爆豪チームともぶつかることになるけど!」
「エッ俺爆豪怖ぇんだけど!」

 そう言いながらも、飛井は足を止めなかった。意外と根性がある。
 物間チームと、そして爆豪チームとの距離が縮まっていく。その時、爆豪が飛んだ。

「邪魔だ!」
「っ!?」

 眼前で爆発が起きた。言うまでもない、爆豪だ。ハチマキがある首回りには予め障壁を纏っていたし、咄嗟にもう幾つか障壁を出したものの、目と鼻の先で起こった轟音と爆発の衝撃に一瞬気が遠くなる。
 限界が近づいている今、咄嗟に造り出せる障壁の強度は決して高くはない。至近距離での攻撃に耐えきれず、ぱらぱらと割れて空気に溶けていった。
 はっとした時には、爆豪は既に物間に飛び掛かっていた。ハチマキもひとつ少なくなっている。飛井は攻撃を受けて少し後ろに飛び退いたようで、両チームとの間には距離が空いていた。
 攻撃された瞬間は恐ろしかったが、今は爆豪への苛立ちの方が勝る。「取り返そう!」と飛井を見れば、飛井はひどく焦った様子で守璃を見上げていた。

「今の、大丈夫だったか!?」
「ううん、ごめん、1本獲られて──」
「じゃなくて! 頭! 顔! ケガは!?」
「えっ、えっと、髪の毛ちょっと焦げたかもしれない?」
「そんだけ!? 火傷とかは!?」
「え、ない、たぶん──」
「なら良いけど、いや、やっぱ良くねーわ!爆豪アイツヤベーよ! “個性”を人に向けちゃいけませんって教わってねーんかな!?」
「いや、でもコレそういうのアリの競技だしね……?」
「けど! よりにもよって! 頭とか!」

「マジねーわ!」と飛井は叫んだ。爆豪は本人も知らぬ間にまたひとつ嫌われてしまったようだ。守璃はなんだか毒気を抜かれて、少しだけ冷静になった。

「爆豪に近づかずに物間に近づくにはどーすればいいかな!?」
「状況見る限りそれは無理だね……」
「くっ、まぁ時間もそんな残ってねーもんな……」

 そうだ、騎馬戦はもう終盤。誰も彼も、勝つために手段は選べない。
 残り時間はおよそ1分。
「おし!」と気合いを入れ直した飛井がもう一度地面を踏み込もうとした時だった。

「アレから獲るのはさすがに無茶なんじゃないか?」
「それは──」

 守璃と飛井は口を開いた。
 やってみなきゃわからない。まだ諦めたくない。
 それが二人の答えだった。そう答えようと、思ったのだ。
180622
原作キャラの台詞がふたつしかないことに驚愕しています。すみません…

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