羽化するその日を待っている
「貴方ともそれなりの付き合いだけれど、未だに何を考えているのかわからないわ」

 こちらを見ず出し抜けにそう言った彼女の口調は、いつもと何も変わらなかった。しかし、こちらを向くことがない視線や、手元のケーキを見ているようでどこも見ていないような遠い目が、彼女なりに何かを考えて込んでいるのだということを示している。手にしたフォークをくるくると弄び、彼女の好物であるケーキはまだ一口も減っていない。
 彼女は私の考えていることがわからないと言ったが、私だって彼女が何を思って脈絡なくそんなことを言い出したのかわからなかった。かといって、おあいこですねなんて返そうものなら、彼女は呆れたように笑うのだろう。少しだけ目を伏せて、そうやってまた誤魔化して、とまるで気にしていないふうに言うのだ。それくらいは、わかる。わかりきった反応を見てからかうのも時には楽しいが、なんとなく今日はそういう気分ではない。

「どうしたんです、急に」
「どうもしない。どうもしないけれど、いつもそう感じるから」

 くるくるとフォークを弄ぶのをやめて、ケーキを一口大に切り分ける。そして切り分けた分にフォークを突き刺すからてっきり食べるのだと思いきや、そこでまた動きを止めた。

「私はザクスと対等になりたかったの」
「それは初耳デス」
「今初めて言ったから当然だわ」
「でも……過去形なんですネ?」
「……貴方の考えていることがわからない私が、対等になれるわけないのよ」

 ふむ、なるほど。今日の彼女は何やらギルバート君に似ている。普段は彼よりも勇ましい彼女は、時に驚くほど後ろ向きになる。そういうとき励ますのは大抵歳も近く私より付き合いの長いレイムなのだが、彼は今バルマ邸に戻っていてパンドラにはいない。となると、こうして居合わせた私がその役をやるべきなのだろう。が、私が誰かを励ますなんて柄ではないし、レイムと違って彼女の胸の内を知り尽くしているわけでもない。
 ──私も、彼女の考えていることはわからない。

「君は、私が君に本心を見せていないと思っているでしょうケド」
「……」
「それは君も同じでは?」
「……え?」
「レイムさんには何でも相談するのに、私には何も言わないじゃないですか」
「それは……、だって、…ザクスに弱みなんて見せたら」
「言い触らされるとでも?」
「ううん、そうじゃなくて。……ますます対等に慣れないから」

 そこまで言って、彼女はようやく顔を上げた。真っ直ぐな眼差しで私を射抜く。初めて彼女と会ったときから何年という時間が流れ、それでも決して変わらないこの双眸を、私は黙って見つめ返した。
 そういえば彼女は、知り合って少しした頃にも言っていた。『私はいつか貴方と並びたい』当時は、剣術に秀でた彼女が剣の腕前で並んでやるとちょっとした宣戦布告をしてきたのだと思っていたが、本当のところはどうだったのだろう。答えは彼女の双眸を見ていれば分かるような気がした。

「──ナマエは、時々ほんっとにバカですよネェ」
「は…」
「本心を隠す人間に、本心を明かす人間がいると思いますか?」
「……何よ、それ」

 眉間にシワを寄せた彼女を小さく笑って、彼女のケーキにフォークを突き刺す。咎められるかと思ったが、彼女はケーキには一瞥もくれずに呟いた。

「私が本心を明かせば、貴方も本心を明かしてくれるって言うのかしら?」
「……さあ、どうでしょうネェ?」

 くつくつと笑うと、彼女は溜息を零して肩を竦めた。

「そうやってまた誤魔化して」

 思い浮かべていたのとそっくりそのままの声色で言うものだからおかしくて、もう一口彼女のケーキを頂戴する。そこで初めて彼女は、自分のケーキの半分が既に私の口の中に放り込まれたことに気がついたらしい。すっかりいつも通りの彼女がケーキの皿を取り上げて、憎まれ口を叩いた。


Happy birthday Break.
We love you forever!
140930
- ナノ -