パジャマパーティ

◎Twitter再録/寝間着ログスト後if
◎オマケでログストネタ会話文あり


「これより第二回パジャマパーティを始める!」
「今回はゲストとしてベリルちゃんをお迎えしておる。みんなで盛りあがろうね!」
「お迎えっていうか、ここ私の部屋なんですけど」

 どちらかというと『お迎えさせられている』ような……。
 ベリルのそんなぼやきは聞こえないふりで、可愛らしい寝間着を身に纏った双子は「きゃっきゃっ!」と大はしゃぎだ。ベッドに飛び乗り、無邪気な子どものように飛び跳ねている。
 一方、無理やり連れて来られたらしいブラッドリーとミスラとオーエンは、やはり寝間着を着ているものの、これでもかというほど白けた顔だ。当然のことだが、機嫌もあまりよろしくない。まだ誰も魔道具を取り出していないのが不思議に思えるほどだった。
 三人とも、双子に何か弱みでも握られているのだろうか──ベリルはしみじみ溜息をついた。

「どうしてわざわざ私の部屋で……」
「だってベリルちゃんのベッドが一番大きいんだもん」
「『だもん』じゃないです。どうせ魔法で巨大化させるなら、どのベッドも同じですし」
「同じじゃないもん。それにベリルちゃんも北の子なのに、仲間外れは可哀想かなって」
「そのまま仲間外れにしておいてくれてよかったのに……」

 魔法舎の若い魔法使いたちならともかく、年を重ねた北の魔法使いに仲間外れも何もないだろう。妙なところで妙な仲間意識を発揮しないでほしいものだと、ベリルはさらに溜息をつく。

「突然押しかけられて、強引に寝間着に着替えさせられて……困りますよ、こういうの。そもそも寝間着なんて、他人に見せるものじゃないでしょうに」
「でも、パジャマパーティしたいんだもん」
「寝間着じゃないと意味ないんだもん」
「すぐそうやってかわいこぶる……」

 ベリルが顔をしかめると、ブラッドリーは笑いながら肩に腕を回した。

「寝間着見られんのを気にしてたのか? 減るもんじゃねえしいいだろ。今更だし」
「そうですね、今更ですよ」
「そういう問題じゃない」
「ブラッドリーはともかく、どうしてミスラも『今更』なの?」
「昔から何度も見てるので」
「ともかくじゃないし訊かなくていいしミスラは答えなくていい」
「……ミスラは昔から何度もベリルの寝間着姿を見てるの? 『そういう仲』ってこと?」
「? はい」
「えっ」
「えっ」
「待って、違う、今何か誤解が生まれた気がする」

 双子が意味深な含み笑いをし、逆にブラッドリーは笑いを引っ込めた。何とも言い難い妙な空気が漂っていたが、たぶんミスラは何もわかっていない。
 さらに顔をしかめたベリルに、オーエンはべっと舌を出してみせる。明らかに、こちらの反応を面白がって揶揄っている。ちょっと引っこ抜いてやろうかなと考えたところで、ブラッドリーが二、三度ベリルの肩を叩いた。そうして、「……まぁ、ミスラだしな」と、宥めているのか茶化しているのか、どちらともつかない調子で言う。

「どうせ時間もタイミングも考えずに押しかけてたんだろ」
「そう。何も考えてないくせに魔力は強いから、結界の内側に力業で空間を繋げやがるの。それで、結界もあんまり役に立たなくて」

 ベリルはじとりとミスラを見上げたが、当のミスラはきょとんとしてベリルを見下ろした。

「あの町に結界なんてありましたっけ?」
「腹立つ……!」

 本心から言っているのがわかるだけに、心底腹立たしい。ベリルは年甲斐もなく地団駄を踏みたい気持ちになった。
 そんな内心をすっかり見透かしたかのように、オーエンが笑い声を上げる。

「あはは、可哀想なベリル。きみがどんなに頑張って結界を張ったって、ミスラにとっては蜘蛛の巣みたいなものでしかないんだよ」
「うっさいな。だけど蜘蛛の巣だって、大きく幾重も張り巡らせれば十分防壁になる。現におまえは入れなかったでしょう、オーエン?」
「は? 僕は入れなかったんじゃなくて、入らなかったんだよ。あんな趣味の悪い町──」
「悪いのはおまえの趣味」
「は?」

「こらこら! 喧嘩は駄目じゃ」とスノウがオーエンに飛びつき、
「もっと仲良く和気藹々と過ごせんかの」とホワイトがベリルに飛びついた。

 対して、「無理だろ」と真っ先に答えたのはブラッドリーである。ベリルも深々頷いた。北の魔法使いが集まって『仲良く和気藹々と』事が運ぶはずがない。それは、双子が一番よくわかっているはずだろう。

「むむ……。では、前の賢者から聞いた『川の字』というものをやってみるのはどうかの」
「かわのじ?」
「何それ」
「子どもを真ん中にして、端に大人が寝る」
「賢者の世界では、『仲良し家族の象徴みたいなもの』だそうじゃ」
「何それ……?」
「なんでそれを俺たちがやるんだよ。家族でもなんでもねえだろうが」
「いーからいーから!」
「我らが真ん中ね! あとは好きな順で」

 双子は満面の笑みで、ぼすん! と大きな音を立ててベッドのど真ん中を陣取った。そうして二人仲良く寝転んで、「ほらほら、早く!」と四人を手招きする。
 正直ベリルは展開についていけなかったし、ミスラに至っては「何が始まったんですか?」と首を傾げている。
 最初に動いたのは、呆れたように頭を掻いたブラッドリーだった。

「……しかたねえな。ベリル、おまえそっち行け」
「え?」
「壁のほう」

 押しやられるがまま、ベリルはベッドの端へ移動する。双子のにこにこ見守る視線に居心地の悪さを感じつつ、言われたとおり寝そべると、

「で、隣が俺な」
「私のほう狭くない?」
「文句言うなよ」
「私のベッドなのに……」

 ベリルはぼやいたが、ブラッドリーは素知らぬ顔だ。双子はといえば、「ほら、ミスラちゃんとオーエンちゃんも!」と残る二人を誘い込むことに忙しい。

「はあ」
「嫌だよ」
「ちょっとでいいから〜!」
「……じゃあ、ベリルをこっちにちょうだい」
「あ?」
「双子の隣もミスラの隣も嫌だから、間にベリルを置いて緩衝材にする。何かあったとき、ベリル程度でも一回くらいなら身代わりになれるでしょ」
「なれたとしても絶対なりたくない」
「一番弱い奴がワガママ言うなよな。ねえブラッドリー、ベリルをこっちに寄越して」

 オーエンが薄く笑う。ブラッドリーはベリルに腕を回し、不敵に笑い返した。

「嫌だね」

 すぐさま、きゃあ、と茶化すような高い声が上がる。

「修羅場じゃ!」

 その声音はまるで余興を見ているかのようだ。いったいあとどのくらい付き合えば、双子は満足して解散を宣言するだろう? ベリルはブラッドリーの腕の重みを感じながら、何度目かの溜息をついた。
 ベッドサイドに佇んだままのミスラは、おそらく状況について来ていないのだろう。退屈そうに、呟いた。

「これ、俺は何をすればいいんですか? 帰っていいですか?」

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「ベリルちゃんの怖い話は?」
「……朝起きたら色々忘れていて、自分の魔道具が何かもわからなくなってた」
「あー……」
「馬鹿なの?」
「馬鹿なんですか?」
「あぁもう絶対言われると思った」
「だって、自分の魔道具でしょ? そんなのミスラだって忘れないよ」
「そうですよ。あなた、ちょっとぼんやりしすぎなんじゃないですか?」
「それ、ミスラちゃんが言う?」

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