極彩色は掴めない
ミスラは舟を漕いでいた。湖畔に篝火が見えたから。
二晩連続だ。寒波に襲われたわけでもないのに立て続けに死人が出るのは、少し珍しい。
岸辺に着くと、年嵩の男が二人待っていた。
「どうぞよろしくお願いします」
男たちは震える声で言い、布に包まれた遺体を二人がかりで持ち上げる。そうしておっかなびっくり舟に乗せる様子を、ミスラはぼんやり眺めていた。
復路で、ミスラは何気なく遺体に目をやった。乗せるとき男の袖でも引っ掛かったのだろうか、わずかに布が擦れ、土気色の顔が覗いている。
若い娘だ。
不思議とどこかで見たことがあるような気がした。さて、いつだろう。どこで見かけたのだったか。
ミスラは少しだけ考えて、すぐにやめた。
見かけたことがあろうとなかろうと、ミスラにはどうでもいいことだ。
ミスラはただ舟を漕ぐ。己のねぐら、“死者の国”まで。
201025 / 201026 title by エナメル