生徒会長室にあるソファ。私はその座り心地の良いソファには座らず、そのソファに座る生徒会長様の膝の上に乗せられている。
跡部様、あとべさま…
この日、校内はこの言葉で覆い尽くされる。跡部様と呼ばれるその男は生徒会長でありながらにして強豪と呼び名の高い氷帝学園のテニス部部長も務めているという完璧な人物である。そんな完璧な男の彼女は、なんの変哲もない私。意味が分からない。膝の上に座らされている理由もわからない。彼は私が逃げないようにと、私の腰に手を回している。
「跡部様」
彼に向き合う姿勢をとってそういうと、嫌そうに顔をしかめた。
「その呼び方やめろ」
「なんで?みんな呼んでるのに」
「あーん?お前は俺の彼女だろうが」
ぐっと腰を引き寄せられて、頬にキスをされる。ん、と声をあげると嬉しそうに私の頭を自分の肩に押し付ける。甘いお菓子の匂いがする。ソファの後ろに山積みになっている跡部への誕生日プレゼントだ。
「ねえ」
「なんだ」
「私、跡部のこと大好き」
「なんだそれ」
鼻で笑う音がした。また頬にキス。跡部は嬉しい時、私の頬にキスをする。誰も知らない。跡部のことを私以上に知っている子はたくさんいるけれど、私に対して跡部がすることは私しか知らない。知らないでいい。本当は甘いお菓子をプレゼントするのも私だけでいいと思っている。こんな意地悪な女だって知ったら跡部は私を嫌いになるかもしれない。
「お前は本当に可愛い女だ」
「跡部だよ、そんなの思ってるの」
「俺だけでいいんだよ」
「ばーか」
唇にキスをされる。跡部がキスするときに、一瞬目を細めることも私以外一生誰も知らなくていい。この先跡部が付き合うのは私だけでいいし、私が付き合うのも跡部だけでいい。たくさん並べられたプレゼントの中で私の物を選んでくれたのは跡部で、今私を離さないと腰を抱くのも跡部しかいない。この先もずっと。
「ね、」
「ん?」
「ちゃんと言ってなかったね」
「何が」
「誕生日おめでとう」
跡部にキスをすると、嬉しそうに私を抱きしめた。