隣の席にいる柳生は休み時間だというのに参考書と向き合っている。ちらりとそちらを見ても気付きやしない。私は柳生が嫌いだ。紳士な振る舞いをしておきながら裏で何を考えているかわからない。真面目な振りをしているだけかもしれない。信用出来ない奴、柳生は私の中でこんな位置づけである。もう1つ言うならば、あの眼鏡が嫌い。分厚いレンズで目を隠して、誰にも心の内を打ち明けないようにしてる。レンズの下の鋭い目で見つめられてしまうと、私はきっと動けなくなってしまう。





日直の仕事を終え、教室に戻るともう誰もいなかった。ただ柳生の机の上には通学鞄が置いたままになっていて、彼がもう一度此処に戻ってくるのはあからさまだった。私は、柳生が来る前に教室を出なければと思った。急いで机の中に入れっぱなしの教科書を詰める。早くしないと柳生が来てしまう。それなのに、こんな時なのに机の中に入れたはずの携帯が見つからない。私は顔を真っ青にして机の中を漁るけど、やはり携帯らしき物は何も見つからない。私が必死に行方不明の携帯を捜していると締められたままであった教室のドアがガラリと開く音がした。

「何かお捜しですか」

柳生の声が聞こえていない振りをして、私は携帯を捜すふりをした。するとクスリと笑う声が聞こえて、柳生が私の隣に立った。

「貴方が捜しているのはこれですよね?」

私は柳生の方を向く。奴の片手には行方不明であった私の携帯が握られていた。

「なんで、柳生が持ってんの」
「さあ、私にもわかりません」

こいつ、私の机漁ったな。
私は苛つく素振りを見せて柳生の片手から携帯を奪おうと手を伸ばした。すると柳生が私の腕を引っ張った。わ、と声を上げると私の腰に携帯を持った柳生の手が回され、大嫌いな柳生の顔がすぐ近くになっていた。

「ちょっと!離して!」
「貴方に言わなければならないことがあります」
「離してってば!」

必死に抵抗する私を片手で抑えて、余った片方の手で柳生は私の口を塞いだ。

「携帯電話にはもう暫く人質になってもらいます」

柳生はそう言うと私の口を塞いでいた手を腰に回し、携帯を私が届かない場所に置いた。そして、あの分厚いレンズの眼鏡を外した。私は思わず下を向いた。

「私がどうしてこんな暴挙に出たかわかりますか」
「‥わかるはずないでしょ」
「では、質問を変えます。私がどうして今貴方を抱き寄せているのかわかりますか」

柳生は私の顎を持って無理やり上を向かせる。

「わからない‥」
「貴方のことが好きだからですよ」

またクスリと柳生は笑って、私の目を見つめる。

「私は、柳生のこと、嫌い」
「いや、貴方は私のことが好きなはずです」

見つめないで、その目で見ないで、目が逸らせない。
だんだんと柳生の顔が近付いてくる。キス、される。嫌なはずなのに、私は動けない。

「私のことが好きですよね?」

私は、柳生のことなんて嫌いで、信用出来なくて、大嫌いで。なのに、それなのに。

「‥好き」

そう呟くと一瞬柳生が嬉しそうな顔をして、唇が重なった。



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