部室にはもう二度と行かないし、もう蓮二には会わない。もうすぐ卒業だし、立海を卒業して東京の大学に行けば二度と会うこともないだろう。あのコンビニの前を今は毎日1人で通っている。誰も隣にはいない。蓮二はあの子と付き合ってから随分優しくなったと思う。私にも、私以外の子にも、勿論あの子には特別優しく。とっくにわかっていたはずなのに、わからないような素振りをしていただけ。もう、あの頃のままじゃ、いられないのに。空はあの日のオレンジ色から黒く変わっていく。あの日から夕焼けを見ても、綺麗だなんて思わなくなってしまった。
蓮二の恋を邪魔する気はないよ。だって好きだから。でも、少しくらい私を見てほしかった。だから1年記念日のあの日にミーティングになるように仕組んだ。浅はかな考えだって、笑ってくれれば楽なのに、もう蓮二は隣にいないから私が1人自分を嘲笑うだけ。
イヤホンをつけた耳から聞こえてくるのは好きなアーティストの声。他の音を全てシャットダウンしている間はいくらか楽だから。蓮二が「危ないからやめろ」って私に言ったから、歩いている時にイヤホンするのはやめていたけど、もう誰も注意する人なんていないから私はずっとイヤホンを耳につけたまま。すると、誰かが私の腕を強引に掴んだ。ポケットに突っこんでいた手が引っ張られて、ポケットから出た。
「音楽を聴きながら歩くのはやめろと言っただろう」
蓮二はいつもの涼しげな顔じゃなくて、少し汗ばんでいた。息が上がっている。走ってきたみたいだった。
「なに、いきなり」
蓮二は息を整えてから私の腕を離す。
「お前が書いていたノートを読んだ」
私は1年前まで書いていたノートの存在を思い出す。あんなのとっくに無くなっていたと思っていたのに。
「お前の気持ちに気付いてやれなくてすまない」
「‥別に蓮二のこと好きだったわけじゃないから」
「では何故あの日で終わっている」
蓮二が真っ直ぐに私を見つめる。その目で見ないでほしい。何も言えなくなってしまう。こんな所誰かに見つかったらどう言い訳するの。
「そんなこと、聞かないでよ」
蓮二のことがずっと好きだった。同じ気持ちだって思っていた。蓮二があの子と付き合ってからも本当は何処かでずっと「もしかしたら」って思ってた。でもそんなことないでしょう。私、知ってるよ。蓮二がいつも使っているタオルはあの子からのプレゼントだってことも、匂い袋の香りをあの子の好きな香りに変えたことも。だって私達ずっと"仲が良かった"から。
「俺もお前が好きだった」
「そんなの聞きたくない」
「‥すまない」
「っ、いいから行ってよ!」
蓮二は最後にもう一度「すまない」と私に言った。謝るくらいなら、気付かないでほしかった。あのままもう会うこともなく終わりたかった。そんな風に優しくされたら余計に諦められなくなるのに。
Title:思春期