高校生設定
1年前、夕方の練習帰りに赤也やジャッカルと一緒に学校近くのコンビニで買い食いをしていたらコンビニの前を蓮二が女の子と歩いているのが見えた。赤也が驚きすぎたせいで食べていた肉まんを地面に落としたのをよく覚えている。私はその光景を見た時、失神してしまいそうだった。そして次の日、蓮二のそのことを確認すると彼女だと打ち明けてくれた。赤也やブン太が盛り上がる中、私は笑うことすら出来なかった。蓮二は私のことを好きだったんじゃないの、とは到底言えなかったけれど、私は厭味ったらしく「そんな堅物じゃすぐに振られちゃうよ」なんて言った。蓮二はそんな私にいつものように笑っていた。本当に私は素直じゃないと、この時本当に思った。
私は中学の頃からずっとテニス部のマネージャーをしてきた。蓮二とは中学からずっと仲が良く、周りからは付き合ってると噂をされるほどだった。私も蓮二とは付き合うことになると思っていた。蓮二もそう思っていたと思う。練習が休みの日は2人で遊びにも行った。其処に言葉はなかったけれど、私は付き合っているものだと思っていた。高校に入ってからはただの部員のマネージャーになってしまったけれど、練習が遅くなった日には率先して送ってくれたし、1年の時には2人で夏祭りにも行った。なのに、それからすぐ蓮二には彼女が出来た。蓮二には似合わないような普通の女の子だった。蓮二が選んだのがどうしてあの子で、私じゃないのかわからなかった。蓮二とあの子は別れることなく、今日まで続いている。丁度今日で1年記念日になる。私が言った言葉は全くその通りにはなっていない。そして昨日、私は部活を辞めた。これ以上、蓮二の近くにいるのは辛かったから。退部届はもう顧問に出してあるのだが、私は部室に向かっている。私が辞めるという話は顧問を通じて部員達に伝えられてあるらしく幸村から部室に来るように言われたのだ。部員の誰にも伝えずに辞めるなんてことは非常識だから呼び出されるのは当たり前のことだ。部室のドアをノックして開けると其処にはレギュラー陣全員が集まっていた。赤也が泣いているのが見える。ドアを閉めると幸村が私の前に来た。
「ねえ、辞めるって何?」
「もう嫌になったから」
「そんなことで君は辞めたりしないよ」
幸村のすぐ後ろに蓮二がいた。今日は本当なら部活は休みだ。だけど私のために皆が集まってくれている。蓮二だって本当は彼女と一緒に帰りたいはずだろう。
「私大学は東京の女子大に行くつもりなの。だから塾に通おうと思って」
「えっ!先輩立海大にそのまま行くって」
「ごめんね、赤也。気が変わったの」
「じゃあ大学でもマネージャーやるって話は‥」
幸村がへえ、と声を漏らして近くにあった椅子に座った。部室の中は赤也の鼻を啜る音だけが響く。
「今までありがと。じゃあ私帰るね」
「待て」
後ろを振り向こうとした私に蓮二が声をかけてきた。私はドアノブに手をかけることを止めて蓮二の方を向いた。
「どうして本当の理由を言わない」
「本当の理由がこれだから」
「お前が嘘をついていることを俺がわからないと思っているのか」
真っ直ぐに見つめられると私は動けなくなってしまう。本当の理由なんて言えるはずないのに、蓮二は私を捉えて離さない。私は何も言わずに蓮二から目線を逸らした。私はその目が好きだった。私を全てわかっているような物言いが好きだった。だけど貴方はあの子のもの。もう私を見てはくれない。
「‥ごめんなさい」
私はそう言って部室から飛び出した。私を呼び止める蓮二の声が聞こえたけれど、もうほっておいて欲しかった。空はオレンジに染まっていた。私はいつもこの空を見るとあの日のことを思い出す。
Title:思春期