柳先輩が好き。でも柳先輩はみんなの柳蓮二だから私が告白なんて大それたことしちゃいけない。もししたことが周りにバレたら大変なことになる。明日から私は全校の女子生徒から無視の刑に処され、友達だったみんなは私から離れていくのだ。それは避けたい。絶対に1人にはなりたくない。この気持ちがあるからみんな先にはいけない。みんな柳先輩の一番になりたいのに、一番になることがおっかなくて、それならジッと見つめるだけでいいかな、なんて思ってる。私もそう。柳先輩が私のことなんか知らなくたっていい、だって見てるだけで幸せだから。それでいいんだ、たぶん、きっと。





「今日も切原はサボりか」

英語担当の教師がそういう。ちなみに私達のクラスの担任。担任が溜め息をついて私の方を見た。嫌な予感がする。

「学級委員長だったよな。ちょっと探してきてくれ。その間は自習にするから」

やったーと周りが騒ぐ。いやいや君らはやったーかもしれないけど私はやっだー!だよ。前にもこんなことがあったけど、結局切原くんは見つからなくて担任には理不尽に怒られるし、クラスの真面目な子からは批判くるし。私は比較的真面目なグループだから本当に嫌だ。切原ほんとにウザい。サボってんじゃねーよ。

嫌です、とは言えずに私は切原くん捜しの旅に出た。サボり魔がいそうな所を捜し続けると立ち入り禁止の屋上から声がするのが聞こえた。普段真面目な私がこんな所に入るのには気が引けたけど、みんなから野次を飛ばされるよりはまし。私は立ち入り禁止のロープをくぐってダッシュで屋上の扉をあけた。思いきってあけたらちょっと転びそうになった。

「き、切原くんいますか!」

声がやんで私に視線が集まる。ふと見回すとそこにはあら不思議いつもきゃーきゃー言われてるテニス部ではないですか。私は気が動転して、し、失礼しました!と言ってドアをあけ、ん?

「すまないが帰すわけにはいかない」

私のドアを開ける手を抑えているのは私の憧れの人だった。

「え、あ、その」
「柳、誰じゃ?」
「赤也と同じクラスの女子生徒だ」
「えっ俺?」
「ばーか。お前が英語の時ばっかサボるからこうなるんだろーがよ」

真田先輩と柳生先輩以外のテニス部レギュラーの人たちがいることを話し声で察した。どうしよう、こんな所見つかったら綺麗な先輩方が怒るに決まってる!早く逃げ出さないと、まずい。私はドアを開けようとするものの、なかなか開かない。

「あああ開けてください!」
「それは出来ないな」
「どうしてですか!」
「こんな所見られちゃったら、ねぇ」

先程から気付いていた煙草の香り。幸村先輩が私に向かって煙を吐く。その受け付けないむせる香りに私は思わず咳き込んだ。

「やめろ精市、彼女が他言したらどうするんだ」
「だって蓮二見てみなよ、彼女。君のことが好きみたいだ」
「そ、そんなことっ!」
「顔が真っ赤だよ、林檎みたいに」

幸村先輩に煙草の煙を吸わされて、好きな人に好きだとバラされて。最悪だ、どうしよう、絶対に振られる。

「いい加減にしろ。彼女が困っている」
「つまらないな、蓮二は」
「柳、そろそろ口止めしとかんとやばいことになるぞ」
「そうだな」

仁王先輩がそう言うと柳先輩の顔が近付いて、私の顎を持って、唇に熱が伝わった。煙草の香り。

「口止め料だ。不満か?」
「あ、ああ…」
「どうした?」
「すいませんでしたあああ」

柳先輩を突き飛ばして私は教室まで全力疾走した。教室のドアを開けた瞬間、担任が何か言ってたけど耳に入らなかった。柳先輩と、キスしちゃった…。唇に残る生々しい感触が離れない。切原くんは休憩時間と共に帰ってきた。まるで何もなかったように。だけど彼の隣を通ると少しだけ煙草の香りがした。
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