柳のことが好きかと聞かれたらそうなるのかもしれないが、それはあくまでも友達に対するそれと同じ物だ。他の女の子達と同じような「好き」とは全く違う種類であることを理解してほしい。テニス部のマネージャーをやっている私は柳と同じように生徒会にも所属している。というよりも柳の推薦があってテニス部のマネージャーをすることになった。そのことがあってからか柳のことを好きな子やテニス部のファンからは罵声を浴びせられることになってしまった。友達から「柳くんの彼女になれそうもないね」と言われたが、そんなのになるわけない。私は柳の友達で部員とマネージャー、生徒会の一員という関係だけなのだから。そんな甘ったるい空気が2人の間に流れていることもないし、それならむしろ仁王との方が甘ったるい空気が流れているのではないか。元々柳より三年間クラスメイトで同じ委員だったりした仁王の方が仲が良い。つまり私は柳のファンから罵声を浴びせられる必要性は全くないということだ。柳のファンがそういう陰湿な人達が多いと言ってしまえばそこまでなのかも知れないが、そういうことではないように思える。そう思っているのは何故なのかと言われればわからないとしか言えない。今日もまた同じようにテニス部のマネージャーとして活躍している中、嫌な視線が体に突き刺さる。はぁ、と溜息を吐くと仁王が嫌味な笑みを浮かべながら近づいてきた。

「今日も大変じゃのう」
「まあね」
「なんだったら俺の彼女ってことにしといてやってもいいぜよ」
「大騒ぎになるから嫌」

つまらん、と言って仁王は笑う。私も笑うが、引きつった笑いしか今は出来ない。柳のファンだけでなく仁王のファンからも嫌われてしまえば、私はこの学校にいられなくなってしまうかもしれない。女の子は陰湿な所が嫌だ、と幸村くんが言っていたのを思い出す。あの時はそんなことないよ、なんて笑いながら言っていたけど、今となっては幸村くんの意見に頷くことしか出来ないだろう。なんで私がこんな目に合わないといけないんだろう。柳となんか一日に一回話すかどうかの関係なのに。そんなに推薦という立場がいけなかったのだろうか。私が悩んでいると仁王がなあと声をかけてきた。そして幸村くんがこちらを見ていないか確認してから仁王は私に耳打ちする。

「なあ、お前この後暇か?」
「暇だけど」
「放課後付き合え」
「なんで?」
「ポテト150円の日じゃから」
「行く!」
「じゃあ部活終わって着替えたら校門前な」

仁王はそう言うと練習に戻って行った。相変わらず視線は感じるけど、柳じゃなくていっそのこと仁王と噂になってくれたらいいのに。そしたら私だって仁王のファンから睨まれる必要性を感じることが出来る。仁王のことが好きかと聞かれたら好きだと応えるのに。それは恋愛感情か、友情なのかと聞かれれば無論後者だけど。でもそしたら、柳のことを考えて溜息を吐いたり悩んだりすることだってなくなる。柳にだって迷惑が掛からない。仁王はこんな私の考えを理解してくれるだろう。柳の近くにいると苦しくなってしまう。部活が終わり、着替えて校門前で待つ。仁王は見た目を気にするタイプだから着替えるのには少し時間が掛かる。秋も終わりかけ近付いているからかなり寒い。仁王が来ているかを確認しながら私は校門前に立っているのだが、なかなか来ない。手を擦って寒さ対策をしていると私の前に明らかに仁王ではない人が立った。

「‥柳」
「待たせて済まないな」
「えっなんで?」
「仁王にお前が待っているからと言われたのだが、違ったか?」

あの野郎、ハメたな。柳は気まずそうな顔で私を見た。きっと仁王が気を利かせて機会を作ってくれたんだろうけど余計なお世話だ。しかし、こうなってしまった以上仕方ない。柳に「いや、違わないかも。」と言って隣を歩くことにした。待っていても誰も来ないだろうし、このまま外にいるのは寒すぎる。柳と話すのはいつぶりなのだろうか。私がまだ生徒会だけしか所属していない時は一緒に帰ったこともあったのに。まあ私が柳と関わる機会を出来るだけ減らしてきた結果なのだろうけど、随分懐かしく思える。ずず、と鼻をすする。

「寒いか」
「寒いけど、大丈夫だよ」
「女性は身体を冷やしてはいけないと聞く。これを貸してやろう」
「えっ、柳が寒いじゃん!いいよ」
「気にするな」

そういうと柳は身に着けていたマフラーを私の首に巻いてくれた。あっ、ドキドキする。まただ、苦しい。なんなんだろうこれ。柳と一緒にいると苦しい。普段の私じゃなくなくなる気がして怖い。

「最近お前と話す機会が減っていたな」
「あっ‥そうだね」
「お前と話す機会が減る度に寂しいと感じていた」

何も言えなくなってしまう。柳は行こうか、と言い歩き出した。私はうん、と言い喉まで出かかっている言葉を飲み込んだ。私は何を言おうとしているのか自分でもわからない。でも柳に伝えないといけないことがあるような気がするのだ。

「ねえ、柳」
「どうした?」

私柳のファンから睨まれるんだけど、あんた何かしたんじゃないの?柳といると苦しくなるんだけど、どうして?今こんなにドキドキしているわけを教えてよ。

「たまにでいいし、私と一緒に帰ろう」

こんなことが言いたいわけじゃないのに。だけど柳は嬉しそうに微笑んだ。

「俺もそう言おうと思っていた」





「絶対あの二人付き合ってる!」
「私もそう思う」
「柳くんもあの子も話してる時すっごく幸せそう」





20111127
最後の会話は柳のファンの女の子
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -