ぎりっと歯を噛みしめたって意味がないことは知ってる。彼女には彼氏がいる。同じクラスの仁王。私はあいつが大嫌い。彼女を変えてしまったあいつが嫌い。ふわりと笑う彼女は汚い。彼女は嘘つき。本当は清楚でも可憐でもないくせに仁王と付き合いがために下ネタなんて言えない振りをして。あんた一か月前までは私達と一緒に変なこと言ってたじゃないか。何、彼氏が出来たら下ネタなんて言えないの?そんなキャラじゃないくせに。仁王のせいで私達の話は彼女の惚気話が中心になってしまった。一か月前までは私達の話題の中心は下ネタかクラスのイケメン話だったのに。その時は楽しかった、仁王のことも嫌いじゃなかった。「仁王くんってかっこいいよね」なんて言っている奴のことは馬鹿馬鹿しく見てた。だって仁王ヤリチンじゃん、仁王またほかの女連れてたよ、仁王最低。もう仁王の悪口なんて言うの私だけしかいない。むしろ私も言わない、言えない。彼女があまりにも嬉しそうに仁王のことを話すから言えない。むかつく、なんて内心思ってても言えない。告白したのは仁王の方だったらしい。かわいいから、付き合ってくれんか?って言われたって付き合ったその日に彼女は私に電話で言った。「そうなんだ、おめでとう」なんて言うけど、本当は思ってなかった。だって仁王、最低なんだよ。騙されてるよ、ヤられたら終わるよ。




彼女が部活の会議があるからと私に日直を変わってほしいと言ってきた。えーと言いながらもお願い、お願い!と頼んでくる彼女を見るとなんだか断れなかった。教室には私だけ、鞄が私以外にも残っているからたぶん他にも誰かいるんだと思う。私は日誌を書き終えると立ち上がり、黒板を消す。黒板消しは嫌い。白い粉がつくし、無駄に黒板でかいし。めんどくさい。溜息をついてから私は黒板を緑に戻していく。ちょっと、いやかなり白く粉が黒板についているけど無視。私は水道でチョークの粉がついた手を洗うために教室のドアを開ける。

「おっと、危ない」
「あっごめん‥って仁王」
「なんじゃ嫌そうやの」
「別に、そこどいて。手洗いに行くから」

仁王を押しのけるように私はドアを通る。やだ、こいつと一緒にいたくない。てか残ってたのあんたかよ。また溜息をつくと、後ろから凄い力で教室の中に戻された。うわ、と声が出る。

「痛い!何よ」
「お前、いっつも俺から逃げようとしとんな」
「‥別に、手洗いたいんだけど」

こいつの目を私は見れない。引き込まれそうで怖い。ていうか見透かされそうで怖い。仁王は何もかも知っている気がする。私が仁王を嫌いなことも、嫉妬していることも。今日のブラの色まで知ってるかもしれない。私は教室のドアに背中を付けて仁王と向き合っている。目は逸らしているけど。そんな私に仁王はイラついたのかガンとドアに私を押し付け、私の頭の上に腕を置いた。逃げようとするけど仁王と密着しすぎて動けない。何こいつ、気持ち悪い。

「お前のこと好きなんじゃけど」
「はあ?」

予想外のことを言われた私は驚く反面こいつ頭おかしいんじゃないのと思いながら仁王を睨んだ。仁王は嘘か本当かわからない顔をしている。

「‥彼女いるじゃん」

動揺してしまった私はこれしか言えなかった。彼女の悲しい顔を浮かべたら心臓が痛くなった。もうやめて、近付かないで。もし彼女が忘れ物か
何かで帰ってきたらどう言い訳するの。誰かに見られたらどうすんの。

「あいつのことは好きじゃない」
「はあ?」
「お前が好きじゃ」
「意味わかんなっ‥!」

仁王は私の身体を押さえつけ、キスをした。ガタン、とドアが鳴る。私は仁王を突き放そうとするけどさすがテニス部だけあってびくともしない。やめて、と言おうとすると口が開いてしまい仁王はその隙を狙い舌をねじ込んでくる。

「っ‥」
「何すんのよ!」

仁王の舌を噛むと仁王は痛そうに口元を押さえた。私はそういうと自分の席から鞄を取って教室を走って出た。意味わかんない。チョークの粉が付いた手を洗うことも忘れて私はそのまま家に帰った。


次の日の朝、学校に行くと彼女が泣いていた。私はもしかして昨日のことがみんなに伝わったんじゃないかと冷や冷やしながら彼女に近付いた。周りの子から事情を聞くとどうやら昨日のことではなかった。ほっと安心する。どうやら彼女が仁王に振られてしまったらしい。

「元々私のことは好きじゃなかったって、」

しゃっくり混じりの声で彼女がそういう。私は仁王の方を見る。仁王も私を見ていた。ぎりっと歯をかみしめる。口の中で仁王の血の味がした気がした。

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