「結婚おめでとう」そう、貴方は言いました。

私は今日、結婚します。貴方じゃない人と。彼はとても優しい人で、私を本当に大切にしてくれています。私が寂しいと言ったらすぐに飛んできてくれるし、ディズニーランドに行きたいと行ったら一番高いホテルの一番高い部屋を予約してくれました。誕生日には年の数だけの薔薇の花束と私が好きなブランドのバッグをくれ、来年の私の誕生日に結婚式を挙げようと言われました。貴方とは大違いです。貴方は私がいくら寂しいと泣いても喚いても、会いには来てくれず、毎日バカみたいにテニスばかりして。それはいつだって変わらなかった。私の誕生日と練習試合が被ったら練習試合を優先したしプレゼントもなかった。何処かに行きたいと言ってもテニスの練習が忙しいからと断られた。毎日毎日、私は悲しかった。貴方は私を好きなのかどうかさえわからなかった。デートの時にも貴方はテニスのことばかり。私のことなんて見てくれてはいなかった。それでも私達はまるまる5年間付き合っていた。中学の時に知り合い、高校の最後の年に付き合い始め、社会人1年目に別れた。私が貴方に別れようかと言った時も貴方は顔色一つ変えなかった。私達の5年間はあっけなく終わりを告げた。それから私は貴方以外と人と付き合い貴方以外の人と抱き合い、キスをし、身体の関係を持った。初めて貴方と身体の関係を持った時貴方も私も初めてで緊張して、ぎこちなかったよね。貴方は私に力を抜けと言ったけど貴方の方が力が入ってて、笑ったのを思い出すよ。彼は女の子の扱いには慣れてはいなかったけど、優しく私を抱き締めてくれていました。ゆっくりでいいからな、と彼が私に言った時何故か涙が出たのはきっとあの時の貴方と重なったからだと思う。貴方は私と別れてから、誰とも付き合うことなくテニスに集中していると聞いた。貴方は私が邪魔だったんだと思う。だって貴方がテニスに集中する時間を私のせいで減らして、それなのに私はそれでも我慢出来なくて貴方を困らせてばかりだった。泣いて喚いても貴方が来てくれないことはわかっていたのに夜中に電話したり、練習試合の日に誕生日なんだからと言って行かないでなんて言ってみたり。貴方は本当に困っていた。今なら我慢も出来るのに、今なら貴方を応援してあげれるのに。どうして私はあの時貴方の手を離してしまったんだろう。結婚式の途中で貴方が私を連れ出してくれはしないかと何度も思っていた。だけど貴方は絶対にそんなことはしない。私だってされたら困る。なのに願ってしまう自分がいるのだ。幸せになりたいと願うのにどうして泣いてばかりだった貴方の所に戻りたいと思ってしまうんだろう。

「綺麗だ」
「‥ありがと」
「じゃあ行くぞ」

彼の名前は跡部景吾と言います。貴方の中学の同級生でチームメイトです。貴方もこの結婚式に参列します。彼はそれを知ってるけど、呼ぶくらい心の広い人です。貴方はきっともう私のことなんてなんとも思ってないでしょう。私は真っ白なドレスを着て景吾の隣を歩きます。エスコートしてくれる彼はもう慣れた物という感じ。貴方ならきっとまたぎこちないんでしょうね。景吾は私の父に私をお願いします、と言った。父もあの跡部グループの御曹司と結婚ということで大変張り切り、緊張していた。私は父の手を取る。扉が開く。貴方はこの式場の何処かにいて、私を見てる。父から景吾に私は受け渡される。景吾は私を見て優しく微笑んだ。神父が私達を祝福した。友達も泣いている。景吾は私に愛してると呟き、キスをした。ペールをまとった私は真っ白だった。2人でヴァージンロードを歩く時、貴方はいた。私を見ていた。景吾はそれに気付いたのか、貴方に近付く。私の手をしっかりと握りしめて。

「宍戸」
「お、おう」
「今日はすまないな」
「いや」
「ほらお前も」
「‥うん」

亮は私を見た。私は少し泣きそうになった。貴方は私を貴方なりに大切にしてくれていたのかもしれない。貴方なりに私を愛してくれていたのかもしれない。だけど、私は貴方じゃない人と結婚します。私は貴方が好きでした。貴方が私を愛してくれていたよりずっと。だけど、私は貴方を選ばなかった。貴方が簡単に私を離したように。私は私を愛してくれている人と結婚します。

「結婚おめでとう、幸せになれよ」

貴方は私にそう言った。私はその言葉に少し頷き、景吾の手を引っ張り別の人達に挨拶に行きました。知ってるよ、私。貴方が泣きそうになる時、一瞬悲しそうな顔をした後に思いきり笑うこと。
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