薄荷の味のドロップは小さい頃から苦手だった。他のフルーツのドロップはあんなにも美味しいのに其処に薄荷があるだけでなんだか美味しくないように見える。でもあの女はその美味しくないはずの薄荷のドロップをいつも舐めている。変わった女だと思った。スクールバッグの中に薄荷の飴の袋なんていれてやがる。俺なんて甘くて美味しいお菓子ばっか入れてんのに。誕生日の時にポッキーを勧めたら甘い物は苦手だからと言われた。人生損してる。甘い物が苦手だなんて。


母親に頼まれて買い物に行くことになった。余った金で何か買って行こうと考えた俺は直ぐ様お菓子が売ってるコーナーに行く。チョコレート、クッキー、忘れちゃいけないのがガム。今はグレープがお気に入り。買い物カゴにそれらを入れてレジに行こうとしたらふと目に入ったのがあの女がいつも持ってる薄荷味の飴。ドロップの薄荷だけが詰まった美味そうじゃない見た目。それを俺は何故か手に持った。別に好きなんかじゃないのに、むしろ嫌いなのに予算オーバーになるために買うはずだったチョコレートをやめて薄荷の袋をカゴに入れる。後で後悔するかなんて不思議とその時は考えなかった。


帰宅してクッキーとガム、それと薄荷のドロップを持って部屋に入る。薄荷の袋を開けると少し鼻がツンとするような匂いがした。1つ取って口に入れる。やっぱりあんまり美味しくない。でも不味くはなかった。舐めてみると案外甘い。カランと口の中で転がすとあの女の横顔が頭に浮かんだ。その日はなんだか飯を食う気にならなくて晩飯は食べずにそのまま風呂に入って寝た。家族は珍しいと言って心配していた。風邪でも引いたのか、俺。

次の日学校に行くといつも隣でカリカリと真面目に勉強してるあの女の姿がなかった。どうしたのかと心配してる自分がいたのには驚いたがあの女の友達に聞くとどうやら風邪を拗らせたらしい。風邪くらいで休みやがって、なんて思いつつもちらちらといない彼女の席を見る俺はどうやら病気にかかったらしかった。放課後練習が早く終わったから事前に聞いておいたあいつの家に行ってみた。ほら、やっぱり心配だし。チャイムを鳴らすのがこんなに緊張することだなんて初めて知った。ゆっくりとチャイムを押すとあいつの母親が出てきて、その後すぐにあいつも出てきた。いつもきっちりしている女なのに風邪を引いてるせいかやけに無防備に見えてなんだかドキドキする。

「丸井くん、どうしたの」
「あ、いや‥お前が風邪って聞いたから」

ドキドキする。なんだこれ。やっぱり病気だ。動悸が激しいしなんだかこいつを見てると顔が赤くなる。

「ありがとう、明日は行くね」

そう言った彼女の手に俺は昨日買ったクッキーとガムを持たせた。彼女は少し顔を歪めた。

「お前にやる。俺が好きなもん全部」
「えっ?」
「だから、その‥」

動悸が激しい。ああもう駄目だと思った俺は「じゃあまた明日」と一言置いて走った。


薄荷の飴をまた1つ口に入れると、今度は美味しく感じた。やっぱり病気だ。


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