寂しいなどという言葉を私は言いませんでした。昔から私は孤独だったから、それに慣れてしまったのでしょうか。私は独りでいても苦にはなりませんでした。学校ではいつも独り、お弁当を食べるのも、トイレに行くのも全部独り。それでも不思議と寂しくはなかったのです。あの子友達いなくて寂しくないのかな、なんて視線を向けられても鼻で笑って返していました。そんな中で唯一私に必要以上に構ってくる人がいました。F組の柳くん。柳くんは放課後の図書室で私が本を読んでいると必ずと言っていいほど私の隣の席に座る変な人。席は有り余るほど空いているのに。私が彼を柳という名前だと知ったのはそんなことが続いて1ヶ月経った頃でした。パーマがかかったような髪の毛をした男子が私の隣に座っていた彼に“柳先輩”と声をかけたのでした。その声に反応して彼は席を立ち、私に「じゃあまた」と言いました。彼は柳という名前なのかとその時思いました。それからまた1ヶ月が過ぎて帽子を被った風格のある人が柳くんを訪ねて図書室に来ました。彼は「F組は終わるのが早いのだな」と一言。「ああ」と柳くんは答えるとまた席を立ちました。彼は柳くん、F組。私は元々他人には感心を示さない性格だったので、私が柳くんに対して興味を持っていることに自分でも驚きました。


それからまた1ヶ月経った日、柳くんは図書室に来ませんでした。毎日来ていたのにこの日を境に来なくなったのです。私の隣の席は空いたまま。他の席も大半は空席なのに柳くんが座っていたその席はやけに寂しく感じました。私に寂しいなんて感情があったことを柳くんのお陰で知ることが出来ました。私の心に住み始めた柳くんはこう意図も簡単にいなくなってしまうのでしょうか。それが悲しくて寂しくて。


図書室はやけに静かでした。私以外の人は誰も見当たりません。おかしいのです。孤独に対して何も思わなかった私が、誰もいないのかと落胆したのです。いや、誰もいないのかではなく“柳くんは今日もいないのか”なのかも知れません。私はいつもの席に座り文庫本を取り出しました。私は次第に本の世界に入っていきます。すると横から視界を遮るように白い紙が一枚差し出されました。睨むように差し出した人を見ました。

「柳、くん」

懐かしいかな、彼でした。ずっと会いたくて会いたくて仕方なかった。独りにしないでと願ってた。私は柳くんの差し出した紙を受け取りました。そして彼に視線を合わせます。

「、ずっと待ってた」

私がそう言うと柳くんは一瞬驚いたような顔をしましたが、次にはにこりと微笑みました。

「孤独が好きなのではなかったのか」

柳くんは私に向かってそう言いました。私は何だか恥ずかしくなって下を向きました。すると柳くんが私の頭に手を置きました。

「俺はお前が振り向いてくれるのをずっと待っていたよ」


殺してあげたい恋心



私の隣にはまた柳くんが座ります。もう孤独が苦ではないなんて言えない。そう思いながら私はまた文庫本に視線を戻しました。柳くんに貰った紙には彼の携帯の番号が書かれてあったのでした。


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慈雨」様に提出

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