「ジロちゃん、」
反応はない。ジロちゃんは1年前からずっと眠ったきり起きなくなってしまった。医者には奇跡が起きたらもう一度目覚めてくれるかもしれないが、期待しないようにと言われている。原因不明らしくて治療の施しようがないらしい。1年前の今日、ジロちゃんは誕生日だった。いつもは何かイベントがあるとはしゃいでいるのにその日は終始眠そうにしていた。みんなはいつものことだからと言っていたけど、私は何か違和感を覚えた。そしてジロちゃんはケーキの蝋燭を消す前に眠ってしまった。誰が起こしても起きなかった。あれから1年経って、私達は2年生になった。
「ジロちゃん、昨日跡部と樺地くんがドイツから帰って来たよ。手塚くんは元気みたい。忍足は岳人に付き合わされて遊園地に行ったんだって」
返事は勿論返って来ない。目は瞑られたまま。
「宍戸はクラスの女の子に片想いしててね。長太郎は寂しがってる。日吉くんは相変わらず跡部を目の敵にしてる。あとね‥」
ジロちゃんがこうなった時、みんな私を気遣って明るくしてくれた。落ち込んでちゃ駄目だと思った。毎日楽しいよ。みんながいるから。でもね、ジロちゃん。私やっぱり‥
「ジロちゃんがいないと、寂しいよ‥」
その瞬間私の手に手が触れた。驚いてジロちゃんの顔を覗くと眠たそうにジロちゃんが目を開けていた。
「あれ?どしたのー。泣いてる」
「じ、ろちゃん、」
私はジロちゃんの腰の辺りに抱きついた。するとジロちゃんは私の背中に手を回した。
「何かわかんないけど、ごめんな」
私は横に首を振った。その夜、跡部が取り寄せたケーキをジロちゃんの前に置いてベッドの周りをみんなで囲んだ。ジロちゃんは嬉しそうに蝋燭の火を吹き消した。