「悩んでる時点で、それは好きなんじゃないの」
「え…?」
「好きじゃなかったら悩まないでしょ。柳くんが他の子と付き合っても名前との関係は変わらないと仮定して、それでも柳くんに彼女が出来るのは嫌?」
私との関係は変わらずに、蓮二に彼女が出来るなんて考えたこともなかった。蓮二とは今まで通りで幼馴染のままでいられる。だけど蓮二には私以外に大切な人がいて、その人も蓮二のことを大切に思ってる。そんなの
「嫌…だと思う」
「じゃあ好きなんじゃない?」
「でも、今更好きになるなんて」
「今更じゃないでしょ、ずっと好きだったよ名前は」
ずっと好きだったよ、と言われてカッと顔が赤くなる。
そうだ。私は蓮二の事が好きだった。ずっと、もうずーっと前から。嫌いだって言い張ってたあの頃から、本当はずっと好きだった。ただ、それを認めるのが怖くて。私達はずっと幼馴染で、今までそれで上手くいってた。もし私達の関係が変化してしまってそれが壊れたらもう幼馴染として蓮二の隣にいられない。
蓮二は怖くないの?もう二度と会えない関係になるかもしれない可能性があるのに、どうして変わろうとするんだろう。どうしてこのままじゃ、私達はいられないんだろう。自覚しなければ、ずっと幼馴染のまま傍にいれるのに。
そのまま帰る用意をして、友達と一緒に帰路に着く。蓮二はまだ部活で帰っていないから、急いで友達と分かれて家の中に入る。ベッドに倒れ込んでサイドテーブルに置いてある写真立てに手を伸ばす。
「女の子みたい」
昔の蓮二は今より少し髪が長くて、私と背も変わらなくて女の子みたいだった。近所のおばあちゃんにも仲良しの双子ちゃんみたいねと言われたことだってあった。あのまま仲良しの双子のままでいたられたら、こんなに悩む事もなかったのかな。
写真立てをベッドに置き、手で顔を覆うと自然と涙が出てきた。私達の関係が変わってしまって、もしもう隣にいられなくなったとしたら、蓮二はそれでいいの。私は嫌だよ。
トンっと窓に雨が当たる音がした。そこから急に本降りになり始めたみたいで、ザーザーと音を立てながら雨が降る。この雨だと外でやってる部活は出来なくなるだろうなと思いながら、起き上がって窓の外を見るともう外は暗くなっていた。
今日、お母さん遅くなるって言ってたっけ、と思いながら携帯を確認すると、「今日お母さん達夜いないから、お父さんに連絡して遅くなるようなら蓮二くんと2人で済ませてね」と連絡が入っていた。そういえば、近所でママ会やるって言ってたな。なんでこんな時に。お父さんに連絡をいれると今日は接待で遅くなると暫くしてから返事があった。
はぁ、と溜息を吐き、まだ電気の付いていない蓮二の部屋を見つめる。どんな顔すればいいのかわからない。
どうしようと悩んでいると携帯が鳴った。画面を見ると蓮二の文字が表示されていて、戸惑いながらも通話ボタンを押す。
「はい」
「今大丈夫か」
「うん、平気」
「母さん達から連絡が入っていただろう。父さんにも確認したが、今日は遅くなるようだ」
「私の方も今日は遅くなるって言ってたから、今日は2人だね」
今日は2人だね、と自分で言っておきながら恥ずかしくなる。意識した事なんてなかったのに。
「…なら今日は外食じゃなくてそちらにお邪魔させて貰っても問題ないか?」
「うん、いいよ。じゃあ何か作るね」
「すまないが宜しく頼む」
じゃあまたね、と通話ボタンを切った。こんなやりとり何百回もしてるのに今日は妙に恥ずかしい気持ちになった。
「夫婦みたい…」
馬鹿みたいなことを思わず呟いてしまって、ハッとなる。考えてしまったことを消すように首を振って、キッチンへ向かった。
冷蔵庫の中身を考えて簡単な物だけ作り終えるとほぼ同時に呼び鈴が鳴る。玄関を開けると勿論蓮二がいた。降り続ける雨のせいか髪が少し濡れている。
「おかえり。珍しいね。いつもなら雨に降られることなんてないのに」
「ああ。考え事をしていたからな。雨が降る事を忘れていた」
もしかして、私の事?と思うと恥ずかしくなってそれ以上は聞けなかった。
「じゃ、じゃあ上がって。タオル取ってくるね」
玄関の鍵を締める蓮二を背にタオルを取りに向かう。一緒に過ごす時間、どんな顔をすればいいんだろう。