「おはよう。今日は早いな」
「お、おはよう…」

今日も蓮二と一緒に行かないようにする為に早く家を出て1人で行こうと思ってたのに同じタイミングで蓮二が家から出てきたので失敗してしまった。あの日から私の頭の中でずっとあのキスがぐるぐる回って、蓮二の顔を恥ずかしくて見れなくなってしまった。私がそんな状態なのに蓮二は私のことをいつものように迎えにきて、いつも通り接してくる。もしかしてあの一件は夢だったのかな?とも思えてきて、蓮二に「私達ってキスしたよね?」と聞いたら「そうだな」とそれがどうした?みたいな顔で普通に返されたので私はもうそこから何も聞けなくなった。私はいつも通りに接することが出来なくて、蓮二の顔を見るだけでドキドキして顔が赤くなってしまう。

「名前、どうした?」

顔を覗き込まれ、ひぃっと声を出して仰け反る。

「熱でもあるのか?」

蓮二が私の額に自分の額をくっつけた。

「ななななな!ない!ないから!」
「そうか。あまり無理をするなよ。辛かったら保健室に行く事。わかったな」
「わかった!わかったからもう学校行かないと!間に合わない!」
「いつもより早く出てるから大丈夫だ。普段と同じ時間に着くだろう」

蓮二はいつも通り。あの日から私は変に意識してしまってもう蓮二の事をただの幼馴染なんて思えない。蓮二はいつから私のことが好きだったんだろう。チラッと横目で隣を歩いている蓮二を見ると、視線に気付いたようでん?とこちらを見てきて、目が合った。駄目だ、ドキドキする。

「蓮」
「おーい!柳、苗字!」

名前を呼ぶ声が聞こえたので後ろを向くと丸井くんが走ってきた。

「お前ら今日も一緒なんだな!歩いてるの見えたから走ってきた!」
「そ、そうなんだ」

丸井くんが来てくれてほっとした。私のこといつから好きなの?なんて聞かなくてよかった。

「…丸井、お前はタイミングが悪いな」
「え?な、なんか柳顔怖くないか?」
「気のせいだろう。さて、仕方なく3人で行こうか」
「仕方なくってなんだよ!あ、そういえば苗字」

少し前を歩く蓮二に聞こえないように丸井くんが耳打ちしてくる。

「あの前言ってた女の人お姉さんだったらしいな。お前に変なこと吹き込むなって柳にめっちゃ怒られた」
「あ、みたいだね」
「お前愛されてんな」
「え!」
「…2人で何をこそこそ話してるんだ?」
「なんもねぇよ!な?」
「う、うん」

少し不機嫌そうな顔をした蓮二の隣へ丸井くんがスタスタと歩いて行き、その後を追うように私も歩く。学校に着くまで丸井くんと蓮二は何か話していたが、私はさっきの愛されてる発言の所為で話の内容が全然入ってこなかった。
教室に着くと蓮二は「また後で」と言って私の頭をぽんぽんと叩き、自分の教室に向かう。私はその背中を見送ってから席に着く。すると自分の席に荷物を置いた丸井くんが隣の空いてる席に座った。


「お前さ、柳のことどう思ってんの?」
「どうって…」
「好きなのかって聞いてんだよ。なんか柳はお前のこと好きなんだろうなって思うけど、お前はどうなのかなって」

蓮二のことは好きだと思う。だけどこれが恋愛の意味での好きなのか、幼馴染としての好きなのかがわからない。

「どうなんだろう…」
「どうなんだろうって…。じゃあさ、お前柳が他の子と付き合ってもいいの?」

この間の件は結局勘違いだったけど、蓮二が他の子と付き合っていると聞いた時、胸が苦しくなった。あれは悔しいからだと思ってたけど、今考えたら悔しいって感情はなかった気がする。だけど、ずっと隣にいてくれるのが当たり前だから、いなくなるのが寂しいだけなのかも知れない。蓮二のことを私はどう思っているんだろう。

「それは、嫌だと思う…」
「じゃあ好きなんじゃねえの」

何も答えられないでいると、丸井くんは痺れを切らしたのか自分の席に戻って行った。私は蓮二のことが好きなのかな。蓮二が他の子と付き合うのは嫌、でもそれが好きっていう気持ちに繋がるものなのか。他の男の子のことを好きだった時はすぐに好きって言えたのに、なんで蓮二のことになるとわからなくなるんだろう。



結局答えが出ないまま放課後になってしまった。テニス部は部活があるから放課後は蓮二に会わなくて済む為、心の何処かでほっとする。家は隣に蓮二が住んでいる為、変に蓮二を意識しないで済む時間は放課後だけだ。友達の委員会が終わるのを教室で待ちながら、その日の宿題を終わらせていく。ふと窓の外を見ると、テニスコートが見えた。あの背の高いのは恐らく蓮二なんだろうなと遠目からでもわかる。テニスコートの周りには少し女の子のギャラリーができていた。あの中の1人と、もし蓮二が付き合ってしまったら、私はどう思うんだろう。寂しい気持ちもあるだろうけど、受け入れるんだろうか。
1人考えながら練習風景を見つめていると、教室のドアがガラっとあき、友人が入ってきた。

「お待たせ、ごめんね!遅くなっちゃった」
「ううん。宿題してたから」
「あんた真面目だねー!何見てたの?」
「テニス部の練習」
「あ、そっか。柳くんいるもんね」

そういうと彼女は私の隣に立ち、テニスコートの方に目をやる。

「最近思ってたけど、柳くんと何かあった?」

え、と彼女を見る。

「なんかおかしいから、最近。柳くんの話全然しないし、朝来る時もぎこちないっていうか」
「え!私そんなに蓮二の話ししてた?」
「今更?結構話してるよ。惚気話はもう沢山ってくらいにはね」

彼女の話に顔が赤くなる。私はそんなに蓮二の話をしてたんだと自覚すると恥ずかしい。

「蓮二にね、好きだって言われたの」
「やっぱりね。そういうことか」
「でも私蓮二のことが好きかどうかわからなくて…。丸井くんが今日蓮二が他の子と付き合ってもいいのかって聞いてきたんだけど、それは嫌だと思うのに、その嫌だと思う理由が好きだからなのかどうかわからない」

寂しいだけなのか、そうでないのか。明確にならない限りは答えは出せない。蓮二が私とどうなりたいのかはわからないけど、このまま何もなかったふりをして幼馴染として付き合い続けるのは不可能だということはわかっていた。蓮二が私に伝えてくれたように、私もはっきり伝えなければならない。



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