冗談ぽく言ってはいるけれど、多分半分くらい本気でそう思っている。彼女となら今までの他の女の子たちと違って長続きするに違いない。まあ、なんでYESと言ってくれないかの理由もちゃんとわかっているから言い出さないだけで。

 東北の冬はバカみたいに早い上に長い。つい先月の今頃まで残暑に喘いでいたはずがもうブレザーが手放せないくらいに冷え込む。気が早い奴はマフラーも取り出す始末だ。それでも、幼い頃に彼女が住んでいたという大崎(俺たちの年だとまだ合併前の古川の方が馴染みがあったりする)の方からするとまだ暖かいらしいけど。山一つ二つ越えれば気候が変わるってやつ。
 まあ、宮城の南北の長さと気候の違いは取るに足りないことだ。大事なのは、こんなクソ寒い中で彼女がバシャバシャと洗い物をしてるってことだ。

「なまえちゃん」
「どした、なんか用?」
「自主練そろそろ俺らも切り上げるけど大丈夫?」
「あ、うん。了解した」

 ぱたぱたと水気を切ろうと振る手は案の定真っ赤になっている。気温もあまり高くないのと彼女が冷え性なのも相まってすぐに自然と感覚が戻るとは思えない。Yシャツのボタンも下手したらとめられないのではないだろうか。年頃の女の子にしては結構荒れた、俺よりもふたまわりくらいは小さな手が容易に俺の掌に包まれる。そうすると、何度か瞬きを繰り返して俺を見上げた。

「……なに?」
「うっわ、なまえちゃんの手めっちゃひゃっこい」
「そりゃさっきまで洗い物してたし」
「んだからねえ、ちょっと及川さんが温めてあげようと。ほら、さっきまで練習してたから血行は良好でしょ」

 すごい不審そうな顔しないでよ、って言うと別にいいわこんなんって言われた。彼女が俺のこういった行動に拒否反応を示すのは仕方がない事だ。それもこれも俺がモテるのが悪いんだよね。マネってだけでいい顔されてないの、ちゃんと知ってる。一年の夏くらいからだったっけ。安心して後任せられる後輩見つかんなくて困ってるのも知ってる。それで俺とそういう関係になろうなんて思うわけがない。面倒なことになるのは目に見えているのだから。
 でも、それだからなのかもしれない。他の女の子たちみたいに付き合ってから幻滅なんかしない。俺がどれだけバレーを優先しても仕方ないなあってタオル持って笑ってくれるんだろう。一緒にいてくれないから別れてなんて、もう聞き飽きたんだよ俺は。一方的に好きとか言ってきて挙句一方的に思ってたのと違う別れてとか我儘もいいところだ。

「……あのね、テーピング手伝ってほしくて」
「岩泉とかにやってもらえば」
「やだなまえちゃんが一番優しくやってくれるもん」
「まあ、マネージャーですからやってあげますよ。仕方ないから」

 お礼になまえちゃんの手には俺がハンドクリーム塗ってあげるねって言ったら丁重にお断りされてしまった。そろそろ温もりを取り戻してきただろうになかなか手を放そうとしない俺を訝るように見上げてくる彼女の視線が居た堪れない。

「あんたほんとに今日どうしたの、なんかキモい」
「ひどっ、だってさあ、俺たちの為に頑張ってくれてる手じゃん。労わってあげなきゃと思っただけだよ別に」
「嘘吐け。あんた普段こんなこっ恥ずかしいこと私にだけはしねえべや」

 岩ちゃんよりも、よっぽどお母ちゃんみたいだ。恋とかそういうのを絡めない時の女の子って相対するとこういうものなのだろうか。姉ちゃんとはまた違う。いや、うちの部のお母ちゃんみたいなとこはあるけど確かに。

「いつもと変わんないよォ、フラれたの」
「まぁたか。だれだっけ、5組の子?あんたの好みぜんっぜん分かんないんだけど、毎回ジャンル変わりすぎだし」
「そうだよ、でも理由はいつもと同じ」
「あんたがほいほいオッケーすんのも悪い。もしくはちょっとは譲歩すればいいのに」
「してたよ、オフの日はちゃんと一緒に帰ったりとかしてたし。向こうも了承済みの事だったって、あれ以上は無理」

 彼女だって女の子だ。あっちの気持ちも分からなくもないんだろう。でも、俺の事だってよく分かってるから強くは言えない。だから呆れたように笑うしかできないんだ。何を言うべきか分からなくて困ってる彼女を

「だからさあ、なまえちゃんなら大丈夫じゃないかって」
「寝言は死んでから言え戯け」

 次の瞬間に鋭い痛みが襲う。あんまりウェイトは無いはずなのに思いっきり足を踏みつけられると結構痛い。でも、頭突きじゃなくてよかったなあなんて見当違いなことを思うくらいには俺も慣れてるってことだ。

「女とかあんたには邪魔なだけなんだから作んなくていいべ、少なくとも高校のバレー生活終わるまでは」「えー、じゃあ3年の春高終わったら俺と付き合って」
「なにそれ」

 本当に呆れ返ったような顔だった。けど、嫌悪しているようには見えなかった。だから多分、まだチャンスはあると思う。ウシワカちゃんをぶったおしてあいつらと、そして彼女と全国に行ったらなんだって叶う。そんな気がしていた。




あとがき
血迷った
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