「ねえ、健ちゃんみんなは?」
「みんなって、どの範囲や」

 全国大会も終わり、後は引き継ぎをすれば代変わりだと思っていたところに突如として舞い込んだU-17選抜合宿。この四天宝寺中からも何人かが選ばれていた。その面子がいないということは分かっているが、それにしたって頭数が足りない気がする。

「光くんとか、ユウジくんとか。レギュラー健ちゃんしかいない気がするんだけど」
「……ユウジが小春と一日以上離れてられると思うか?なまえ」
「あ、理解です」

 一体何年前から部室に置いてあるか定かではないパイプ椅子は大仰な音を立てる。ひんやりとした脚の部分にぺたぺたと触っているだけでぎしぎしと悲鳴を上げる椅子がなんだか可哀想だ。

「っていうか、よく自腹で行ったね。お金持ちだわ」
「確かにそうやなあ」

 思い立ってすぐに行けるようなところではないと思うのだが。そういえば、もう一人の方は招聘されていたにもかかわらず「面倒だから」とかいう至極自分の気分に忠実な理由で参加を辞退していた気がするのだが。その辺りを気にしたら負けとかいうやつなのだろうか。
 大阪人らしいノリが充満したこの学校もさすがに夏休みに入れば多少は静かになる。テニス部も例外なく普段は騒がしいのだけれど、輪をかけて毎日大騒ぎなレギュラー陣のほとんどと負けず劣らずキャラの濃い顧問が出払ってしまっている。この時期はこのくらい閑散としているのが当たり前なのはずなのに、大層静かに感じるとはずいぶんと感覚が麻痺してきているのかもしれない。

「健ちゃんも行きたい?」
「や、俺はええわ。多分身がもたん」
「そうだねえ、なんかおっかなそうだもん」

 互いに苦笑が滲む。マネージャーとして帯同した全国大会は何と言うか、圧巻だった。スポーツに関しては完全に素人のなまえからすると、お前ら本当に中学生かなんて思うことが勝ち上がるごとに増えた。見てるこっちの身にもなってくれ、と準決勝辺りからなんだか眩暈がする勢いだったことだってある。そんなのばかりが集められているところに凡人は正直足を踏み入れたくない。命がいくつあっても足りない心地だと思う。異種格闘技でもなんでもなくテニスのはずなのだけれど。


「そーいえば、私今日部室の大掃除しちゃいたいなーって思ってたんだよね。ずっとこっち空けてたし」
「それもそうやな。今日来とる奴らに手伝ってくれんか声かけとくわ」
「私、健ちゃんのそういうとこ好きよ」
「……そらおおきに」




あとがき
需要なんてない
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -