先程まではそこかしこで爆竹が鳴り、果ては花火まで打ち上げられていたがその騒ぎもすっかり収まって夜らしい静けさが辺りを取り巻いていた。戦乱の世の終、という人々が求めて止まなかったものがやっと訪れたのだから人々が浮かれるのも無理はないだろう。むしろ、一晩中この騒ぎが続かなかったことの方が驚きかもしれない。陸遜も最初の方は城の大広間で親しい孫呉の仲間たちとともに酒宴に加わっていたのだが、途中からなまえとその輪から抜け出して二人きりの細やかな宴を開いていたところだった。

「もうすっかり暖かくなりましたね」
「そう、ですね……」

城内の庭に植えられた草花はすっかり春めいた色合いで、奥まった位置にひっそりと建てられた水シャの縁に植えられた枝垂梅も淡く色づいて見事に花開いていた。それを掌に取って眺めるなまえの横顔は酒が入っていることもあり常よりもずっと緩んでいて、それにつられるように陸遜もまた穏やかな心持になっていた。肩に外套をかけてやると体温が高まっているせいで気温はぐっと下がっているのに気づいていないのだろう、不思議そうにこちらを見上げる。

「風邪、ひきますよ。まだ夜は冷えますから」
「伯言様だって薄着じゃないですか」

酒が入ると彼女が少し子どもっぽくなることに最近ようやく気がついた。孫呉の酒宴は君主の酒癖の悪さもあってわりと頻繁に事故が起こるのだが、さすがに男連中はともかく女性陣が羽目を外しすぎたり無理やり飲ませられたりということはないから今まで全く気がつかなかった。ぺたぺた、というのが相応しいような様子で剥き出しになった肌に触れてくるなまえの手を窘めるようにやんわりと掴むと気の抜けた笑顔のままに頭を胸に摺り寄せる。

「今日はずいぶんと素直ですね」
「そうですか?」

抱きしめると小さな笑い声をあげて、瞼を閉じた耳元にそう囁きかけた。お互いに、欲を律することばかりに長けていたのだと思う。自分からは絶対に触れてこようとはしないなまえの躊躇う素振りに、安堵しながらその指先を惜しんで、その癖自分からも触れようとはしないでいた。それは時勢であったり、情を勘定に入れてはいられない二人を取り巻く環境だったりのせいで聡いだけにそれを受け入れ飲み込んだ。けれども、今夜だけは。

「伯言様……私、十分幸せでした。この時だけできっとこれからも、」
「貴女は私の、なまえ……」

言葉にすれば途端に月並みで安っぽくなってしまう感謝や想いなら今の名を呼んだ声に、抱くこの腕に込めた力で伝わればいいのに。軍師の舌先三寸、とはよく言ったものだ。大事な時にこの頭はちっとも働かないではないか。今欲しいのはこの万感を伝える術だというのに。酔いを理由に理性を砕くことでしか触れ合うこともできない、そんな二人でしかいられなかった。





140319

あとがき
無双オンのEDより 取り急ぎ詳しくはmemoにて
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