「なまえ、何読んでたんだ?」
「存在の耐えられない軽さ」
聞きなれないタイトルに内容を尋ねてみる。俺も本はよく読む方だけれど、彼女とは好みのベクトルはだいぶ違っているからか、そういったことは多い。彼女は昔から小説を好んでいた。
「チェコの作家。原書はフランス語だったかな。愁生の好みには合わないと思うけど」
「ああ、そんな気がする」
べたべたの恋愛小説だと苦笑する。あと性描写がやたらリアルで読むのに疲れたと苦笑をこぼして栞を挟む。ああ、それはまた疲れそうだ。

「プラハの春とか、社会情勢の描写的には面白いんだけど」

彼女は昔からわりとそうであった。少しドライなくらいの写実性に富むものか、そうでなければ思いっきり非現実に振り切ったファンタジックな話か。それが中途半端に混じった情緒的な恋愛中心の話はあまり好まないらしい。俺も気持ちは分からないでもないのだけれど。
放課後の図書室に訪れる人口は圧倒的に少なく、今も俺と彼女しかいない。彼女は委員会の当番であるし、俺は俺で生徒会の用事で少し足を運んだだけだ。しかし、目当ての人物はすでに帰ったというから時間を持て余して(いるわけでもないが)彼女とのお喋りに興じてみたというわけだ。

「今日も帰り遅くなるの?」
「ああ、この分だと。さすがに夕食までには帰れるとは思うけど」
「分かった。まあどうせ焔椎真がいるから平気だろうけど気をつけてね」

どうせなんて本人がいたら騒がしいことになるな、と返せば控えめな笑い声を落とす。俺たち以外に誰もいないとはいえ、あまりにも静かな空間にいると何故かそれを壊すのは憚れる気がするのだろう。

「なまえも帰りは気をつけろよ。悪魔だけじゃないんだからな、一応女子高生なんだし」
「はーい」

***

静に閉められたドアの向こう、愁生の背中が廊下の突き当たりを曲がるのをしっかり見送ってもう一度栞を挟んだところから読書を再開する。
こんな恋愛小説が嫌いなのはきっと、私がヒロインにはなれないからなのだと思う。私は、彼女たちのように生きることが出来ないから。だから、私はこういった話が苦手なんだと自覚したのは一体いつ頃だったろうか。運命の女とはよく言ったものだ。
だから、その憧憬を自分の武器に込めたのかもしれない。中途半端に生きる強くも弱くもなれない私が握りしめているそれに願いを込めた。

私にとって人生は重い、だってそうでしょう生まれ持った宿命があるんだもの私には。だからとてつもなく重いものなのそして私にとってあなたはその人生の半分以上を占めているの。でもあなたにとって私の存在はとても軽い、私はその軽さに耐えることが出来ないの。私は弱い、とても弱い人間だわ。だから、

「だから……、」

私はどうすればいいのだろう。




あとがき
終わりが見えなかった。最近読んだ小説、ファム・ファタールの自分の考察がちょっとばかし入っている。ずっと惹かれている要素だけど、うまく書けたためしがないのです。相変わらず夢のない話ですいません(震え声
焔椎真を置いといて愁生と幸せになんてなれるのか…?なんて毎回しょうもないこと考えてこうなります(笑)

130817
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