02

「ん?また始まったみたいだな…全く困った奴らだよ」

「精市、顔は困ったとは言っていないようだが」

「何を言ってんだい?毎朝毎朝、困ってるに決まってるじゃないか…」

「そうか…すまない(顔は笑っているんだがな…)」

「何か言いたそうだな、蓮二」

「いや…」

「部長も大変なんだ、楽しみがなきゃやってらんないだろ?」

朝の清々しい景色にぴったりハマる笑顔を浮かべているのに、どういうわけか部屋の中は氷点下だと柳が思っている頃、隣の部屋でも似た光景が繰り広げられていた。


「お、今日も始まったみたいやな!」

「白石、朝からうるさいでー…」

「謙也は呑気で羨ましいなあ?」

「呑気ちゃうわ‥平和主義やねん」

「ほー…ヘタレなだけ、ちゃうんか?」

「うっさいわ」

「ほな、財前の応援行くで謙也!」

「…俺はまだ眠いっちゅう話や、一人で行ったらええやん…」

早朝から、完璧と唄われる笑顔を爽やかに浮かべながら、気合い十分な白石と寝足りない謙也の会話は大抵毎日おんなじで、寒い寒いと布団にくるまる謙也が布団をひっぺがされて強制的に起こされるのも毎日。

「なんやねん…眠い言うとるやろ?」

「アホか、財前が赤也くんに負けるやなんて、アカンねん!」

「財前は簡単には負けへんて……」

「油断大敵や、行くで!」

階下から騒がしく聞こえてくる声に導かれるように部屋を出たところで、気合い十分な両部長と、明らかやる気のない付き人二名が顔を揃えるのも、また毎日の光景。

「やあ白石、おはよう。朝から無駄に爽やかだな?無駄は嫌いって嘘だったのかい?」

「おはようさん、幸村も朝からなんや黒魔術でもしてきたん?清々しい朝には似合わへん笑顔やで?」

「言ってくれるじゃないか。でも、まあ、そんなことはどうでもいいよ」

「お?なんや、今日は随分簡単に引っ込むとか気持ち悪いで」

ふふふ…と笑う幸村と、相変わらず爽やかすぎる満面の笑みを浮かべたままの白石に、廊下を通り食堂に向かいたい一般生徒がオロオロしているのも、お構いなしだ。

「なあ白石、寝起きを襲うなんて、財前くんは余程自信がないのかな?なんだろうね、そっちにはヘタレを受け継ぐ伝統でもあるのかい?」

「いややな幸村、自分なに言うてんねん。そんなん言うたら、夜這いも出来ひん赤也くんのがヘタレなんちゃう?」

「ははっ…イヤだな、白石。ヘタレなら君の後ろにいるだろ?」

一触即発、何かが起こりそうな空気に、柳、謙也の二人は既に疲労困憊。

ただ、幸村・白石の両名だけが、何かの試練に立ち向かうかのように、毅然と、俄然ヤル気になっていた。

「あーあ…赤也も財前くんも、さっさと襲って既成事実でも作ってくれないかな……」

「そんな勝負やったら財前の勝ちは決まりやな」

「その自信はどっからくるんだか…これだからナルシストは困るんだよな」

「自信のないヤツほど、僻みぽくなんねんな……ほんま哀れやなー」

一進一退、余裕の笑顔を浮かべながらも二人の舌戦は階下に到着するまで、休むことなく繰り広げられる。









「幸村部長!おはようございます!」

「なに、追い出されたの?」

クスッと笑いながら言った幸村の目が笑っていないことに赤也はまだ、気付かない。

「あー、みたいっス」

「赤也、財前に負けたら真田と秘密のプライベートレッスンだよ」

「ゆりちゃん開けてぇ!!!」

が、言って見開かれた幸村の言葉に慌てだした赤也と、そんな赤也を呆れて見ていた財前の顔が心底面倒臭そうに歪められる。

「あ、部長」

「財前も分かっとるやんな?これはお前1人の闘いちゃうねんで?」

「心配される意味分かりませんわ」

赤也とは異なり、爽やか過ぎる笑顔を浮かべた白石にも、隣で一見エンジェルスマイルを浮かべた幸村にも、財前は面倒臭そうな顔で動じない。

「はあ…。おい、ワカメ。自分ちょお、どけや」

「あ?ワカメじゃねえよ!仏頂面!俺が譲ると思ってんのかよっ」

「うっさいわ…ワカメはワカメやろ」

「てめぇ、潰すっ」

「はいはい…、ちゅうかお前邪魔やねん海帰れや」


(赤也、負けたら……ふふ)
(せやで財前、口喧嘩も立派な勝負や!)
(なあ蓮二、赤也には脳みそが足りてないんじゃないか?)
(そ、そうだな‥)
(ちゃんと教育しとけって言っただろ?俺は負けが嫌いなんだ)
(す、すまない…)
(財前ええで!その調子や!どんな勝負も、どんな手使っても勝ったモン勝ちや!)
(白石…お前キャラ変わりすぎやで……)
(謙也も財前見習ってヘタレ克服せなアカンで?)

室内にはゆりの溜め息。
廊下には柳と謙也の溜め息が溢れる、それが渡邊寮の変わらぬ毎朝の光景。


next.(3話)

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