帰り、いつもは一緒に帰らない俺がついて来たことに夏目達は首を傾げつつも四人で雑談しながら帰った。と言っても、ほとんど夏目が神崎をからかってただけだが。夏目達と別れ、俺と神崎は今ゲーセンに居た。二人にはてきとーに話をして誤魔化しておいたので、俺が神崎に告白したことは気付かれていないはずだ。
格ゲーで対戦した後、神崎がメダルゲームしたいと言うので俺は後ろで見ていることにした。メダルゲームはやたことねえし、特に興味も引かれなかった。神崎がやるのを見るのは楽しいからいいが。


「お前パチンコとかは行かねーのな」
「・・・それ古市にも言われたけどよぉ、お前ら風営法知らねえの?」

そう言いながら神崎はゲームをしている。ヤクザの息子が風営法とか、こいつ本当はいい子ちゃんなんじゃねーの。不良とかヤクザとか、キャラなんじゃねーの。そう言いたいが、そんなこと言ったらキレられることは間違いないので押しとどめた。

「姫川暇じゃね?」
「んー?神崎がやってんの見てるだけで楽しーけど」
「そうかぁ?これって、側で見てて楽しいゲームじゃねえと思うけどな」
「・・・・・・・・・・・・」

神崎のこと見てるだけで楽しいんだけど、とか言ったらこいつどうすんだろ。そう考えていたら、神崎がゲームを止めたので俺は首を傾げる。

「神崎?」
「もういい」
「は?」

そう言うとさっさとゲーセンから出て行ってしまう。俺は慌てて後を追った。

「神崎!」


おいて行かれたかと思い焦って外に出たら、神崎は外で待っていてくれた。俯いていたが、俺に気付くと顔をあげる。

「もう帰る」
「どうしたんだよ?」
「・・・・・・別に、いいだろ」

嫌な物でも見たんだろうか・・・。神崎の顔はさっきゲームをしていた時とは打って変わって暗いものとなっていた。あまり質問攻めにしちゃあいけないとは思いつつも、焦る俺はつい訊いてしまう。

「何か嫌なことでもあったのか?」
「違ぇよ」
「んじゃあ、嫌なもんでも見たかよ」
「あのな、」
「俺が後ろから見てたのが何か」
「姫川・・・!!」

最後まで言い切る前に、神崎に遮られた。苦しそうに歪められた神崎の顔を見て、ようやく我に返る。何やってんだよ、俺は・・・。

「わ、悪い」
「・・・・・・別に、いい」
「神崎」
「今日はもう帰る。・・・・・・別に、嫌なもん見たとか、そういうんじゃねー、から」
「・・・・・・わかった」

神崎に申し訳なさ過ぎてそれしか言えなかった。少し間を開けて、神崎は一言じゃあ、と言って帰って行った。その背中を見送って、俺もマンションに帰る。こんな調子で、土日は大丈夫なんだろうか。正直、自信を失った。





部屋に帰って風呂に入ってから、俺はネットでいろいろと情報を探っていた。主に精神的に弱っている奴への接し方を調べた。風呂に入って少し落ち着いた俺は、ゲーセンでのことを反省した。そう簡単にいくわけねえんだ。一緒に帰る前は、きちんと分かってたのに、舞い上がって神崎の状態を忘れていた。次はこうならないよう、念を入れ調べる。

「・・・ふうん」

俺は頷きながら携帯で情報をチェックしていく。集めた情報をまとめていくと、つまり今回の俺の行動はかなり良くなかったってことだ。何がって、神崎にあれこれ質問したことだ。改めて項垂れる。ため息をついて、明日こそは失敗しないようにと、他の情報も頭に詰め込んだ。
ベッドに入ってからも神崎の苦しそうな顔が頭から離れなかった。神崎を傷付けないって決めたのに、俺は何を浮かれてたんだ。


















「神崎、おはよう」

次の日、下駄箱前で神崎を見かけ、できるだけいつも通りになるよう心がけ声をかけた。神崎は眠そうにして振り向くと、欠伸をしながらおー、と答えた。

「姫川、はよ」
「おう」

とりあえず、挨拶を返してくれたことに安堵する。俺も靴を入れて廊下を歩く神崎に並んだ。サングラス越しに神崎を見ると、眠くてだるそうだが昨日のようなつらそうな表情ではなかった。

「・・・あ」

唐突に、神崎が立ち止まる。何事かと視線を向ければ自販機に向かっていてヨーグルッチを買うんだと一人納得した。少しだけ嬉しそうな神崎に俺の頬も緩んだ。

「ヨーグルッチか?」
「おー」

神崎は生返事をしながら出てきたヨーグルッチを啜る。俺はコーヒーを買って口を付けた。ふと、神崎が俺を凝視しているのに気付いて首を傾げる。

「ん?どうした?」
「いや・・・・・・」
「あ?」
「それ、苦いやつか・・・?」

そう言って神崎が指さしたのは俺の飲んでいるコーヒー。苦い、というのはブラックかどうか、ということを訊いてるんだろうか。

「ブラックかってこと?」

そう訊けばコクリと頷く。
いったい何だと思いつつもそうだ、と言えば神崎は驚いたように小さく感嘆の声をあげた。それがかわいくて頬が赤くなる。神崎に気付かれてねーだろうな・・・。

「それがどうかしたか?」
「いや、すげえな・・・って」
「ん?」
「俺、苦いの飲めねーから」

そう言って、すごいなーと俺を見て目を丸くする神崎。
ああ、お前甘党だっけか?ヨーグルッチも甘いしな。ふうん、ブラック飲めねえんだ・・・。あ゛ー、ちくしょうかわいい!んなちょっと尊敬した様な目で見てくんな!!

「飲んでみるか?」
「え゛、い・・・いや、いらねえ」
「ふうん?」

必死に首を振る神崎がおかしくて喉で笑う。

「わ、笑うな!」
「悪い悪い・・・・・・くく」
「〜〜!姫川のアホ!」


笑い過ぎて頭を叩かれリーゼントが崩れたが、そんなことは気にならなかった。神崎が普通に接してくれる笑ってくれる。それだけで良かった。昨日のことが、救われた気がしたんだ。








二人揃って教室に入ると、夏目と城山が駆け寄ってきた。

「神崎くーん!おっはよー!」
「おはようございます!神崎さん」
「おう、はよ」
「・・・てめえら、俺は無視かコラ」

そう睨んでやれば、二人はわざとらしく謝ってくる。ま、冗談だと分かっているから気に障ることもないが。

「神崎さん、ヨーグルッチです」
「おー」

城山から受け取ったヨーグルッチを啜りながら席につくと、俺の方をじっと見来た。ヨーグルッチと俺を交互に見ては、少し唇を尖らした。そんな神崎はかわいらしくて大変宜しいのだが・・・。どうしたんだろうか。
声をかけようか迷っていると、神崎の方から小さな声で話しかけてきた。



「ひ、姫川・・・」
「・・・どうした?」
「さっきの、コーヒー・・・」
「? これか?」

そう言ってまだ中身の残っているコーヒーをかかげた。

「まだ残ってんの?」
「残ってっけど・・・・・・それがどうかしたか?」
「あ、いいいいいや!別に・・・・・・っ」
「?」

あからさまに動揺した様子で何でもないという神崎だが・・・。ま、昨日失敗したばっかだしな。俺は大人しく席につくことにした。

でも、赤面して首をふる神崎は・・・かわいかったなぁ。












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