朝、校門前で神崎を見かけ俺は上機嫌で声をかけた。しかもいつも邪魔な二人はいない。俺は半ばぶつかる様にして挨拶をする。


「よう、神崎」

ドン、と音がするくらいにタックルされ、神崎は思わずこけそうになったのを必死に耐える。眉を寄せて俺を睨んだ。

「いってーんだよ!このバカ!!」
「んだよ。ただの挨拶だろ」
「挨拶でぶつかってくんな!」

そう怒鳴ると、怒り肩でズンズンと先を歩いて行ってしまう。俺は肩を竦め、小走りで神崎を追いかけた。

「待てよ。悪かったって」
「笑いながら言われてもムカつくだけだっつーの」
「後でヨーグルッチ買ってやるから機嫌なおせって」
「う・・・・・・」

そう言うと神崎はぐっと押し黙った。ヨーグルッチを話に出すと途端に素直になるよなぁ。まったく、かわいいやつだ。
そんなやり取りをしていると、後ろから声をかけられた。

「おはようございます!神崎さん!」
「おはよー。朝から面白いねぇ」

そう言って近づいてきたのは神崎の側近である夏目と城山。あーあ、せっかくの二人っきりだったのにな。内心ため息をつく。

「おー、お前ら」

神崎は二人に向かって手をあげて答えた。少しばかり嬉しそうな表情なのが気に入らない。とりあえず四人で教室に向かっていると自販機が目に入ったので立ち止まる。危ない危ない、忘れるとこだった。

「姫ちゃん?」

夏目に呼ばれ顔は向けずに答えた。

「ヨーグルッチだよ」
「へ?」

夏目の間の抜けた声とは逆に、神崎は嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきた。

「二個な!」
「何、温くなる前に飲んじゃえんの?」
「おう」
「はいはい」

そう言って出てきたヨーグルッチを渡してやると、神崎は嬉しそうに笑った。幸せだな、と柄にもなく思った。




学校では夏目達を含め神崎と一緒にバカやって、二人きりで遊びに行けば甘やかしてやって、神崎が泊まりに来れば甘い時間を過ごした。
神崎と出会い付き合いだしてから、毎日が新鮮で楽しくて仕方がない。神崎とはケンカもするが、お互いすっきりするまで殴り合えるし後にも引かない。素直じゃない所もあるが、その何倍もかわいい所がある。今まで付き合ってきた女達とは違う幸福感。こんな幸せがあっていいのかと思う程に、俺は神崎が好きだった。



















「おー、神崎。てめえ最近いっつも寝てんな」

朝教室に入ると、神崎は机に突っ伏してだるそうにしていた。夏目達が挨拶をしながら近寄ってくる。

「おはよ、姫ちゃん。神崎くん、最近寝不足みたい」
「だからあまり騒がしくするなよ」

そう言われ神崎を見ると、起きたのかこちらを黙って見ていた。何だ・・・?

「あれ、神崎くん起きちゃった?」
「寝てていいですよ、神崎さんっ」

いやいや、お前ら学校何だと思ってんだ。俺も似たようなもんだが。

「あ゛ー、別に・・・いい」

そう言いながら神崎は目を擦る。とりあえず、隈はできてねえみてーだな。寝不足なら無理に絡むのもなんだと、俺は自分の席について携帯を開いた。

次の日もその次の日も、神崎は眠そうにしていた。夜更かしでもしているのだろうか、最近は俺の誘いも断ることが多くなってきたのでよく分からないが・・・。夏目達の話を聞く限り病気ではないらしい。ま、一時的なもんだろう。神崎のバカにそれ程の悩みがあるとは思えないし。誘いを断られるのはつらいが、これから先いくらでも時間はあるんだと、特に気にもしなかった。









「神崎くん、携帯なってるよ」
「・・・んー、・・・・・・あ゛?あー、おう」

夏目の声で目を覚ました神崎はだるそうにしながら電話に出た。何やら話し込んでいるみたいだが、少し離れた所にいる俺には聞こえなかった。電話を終え、神崎はおもむろに立ち上がると、カバンを持って教室を出て行こうとした。さすがに、俺は声をかける。

「おい、帰るのか?」
「・・・・・・・・・・・・」

俺の呼びかけに足を止め、振り返ると眠そうな不機嫌そうな顔で、

「兄貴に呼ばれた」

そう言って教室を出て行った。
え、何。恋人の誘いは断って兄貴の誘いには応じるの?それってどうなんですか神崎さん?
少しばかり不満を感じていると、後ろから夏目達の話が聞こえてきた。

「神崎くん、お兄さんに呼ばれたにしては反応がいまいちじゃない?」
「まあ、な・・・」
「? まあ、いいけどさぁ」

いまいち、ねえ。確かに不機嫌そうだったな。あいつ。以前訊いた話じゃ、別に兄弟仲が悪いってことはなかったはずだが。

「・・・・・・ふうん」

ま、何かあったら言ってくんだろ。恋人なんだから。そう思った時、夏目から声をかけられた。

「姫ちゃん」
「あ?」
「姫ちゃんは何か聞いてない?」
「何かって?」
「そりゃあ、神崎くんが何か困ってるとか、そういうことだよ」

少し呆れたように言う夏目に、俺ははん、と鼻を鳴らす。

「知らねえよ」
「・・・・・・訊いてないの?何も?」
「うっせえな。何かあったらあっちから言ってくんだろ。そこまでお互い干渉してねーよ」
「・・・・・・姫ちゃん、本当に神崎くんのこと」
「あ゛?」
「何でもないよ」

そう言って夏目は城山の所へ帰って行った。
何だってんだ、いったい。うぜえこと極まりない。夏目の去り際の俺を見る眼が特に気に入らなかった。





兄貴に呼ばれたと言って帰った神崎は、いつまでたっても学校には来なかった。メールはしてみたが、神崎が返信してこないなんてざらなこと。大して不思議にも思っていなかったが、さすがに三週間は異様だ。
俺は蓮井に言って調べさせようか迷っていた。もしかしたら何か事故にあったのか、それとも家族と旅行?いや、それなら俺に連絡があるはずだ。やはり何かに巻き込まれたというのが一番だろう。
帰って調べるか、そう思っていた時早乙女が教室に入ってきた。珍しく神妙な面持ちだ。とりあえず、帰るにしても早乙女が出て行ってからにしようと思っていた俺に、早乙女から意外すぎる言葉が聞かされた。


「あー、ま、てめえらにまず知らせなきゃならんことがある」

珍しい早乙女の様子に、教室は一気に静まった。




「・・・・・・神崎だが、先日学校を辞めた」



その一言に、俺の思考は停止した。
動けない俺を余所に、まず大きな反応を示したのは花澤だった。ここ最近神崎に懐いていたのだ。当然の反応だろう。

「ど、どういうことッスか!?ヒゲポン!」
「・・・まあ、詳しくは言えないが、家の事情だそうだ」
「そ、そんな・・・っ」

花澤が反応をしたことで、教室内も静けさを失った。何だかんだ言って人望のある奴だった。悲しみ寂しがる不良達。邦枝や大森もどこか寂しげに沈んでいた。男鹿や古市、東条達でさえ納得のいかない表情だ。神崎がどう思われていたか、よく分かる。
それを見て、早乙女も苦しそうに顔を歪めた。

「俺も、つらい。だが、神崎の家が普通でないのは・・・皆知っているだろう。無理に引き留めることはできなかった」
「う〜・・・神崎先輩ぃ」

泣きべその花澤を見て、俺の意識も漸く浮上した。

居ない?神崎が・・・・・・?俺に何の連絡もなしに・・・居なくなった?
あまりのショックに声が出ない。その代り、手が震えた。悲しいという感情より、何故と言う疑問がまず湧いた。早乙女が出て行くまで、俺は動けずにただ黙って携帯を握りしめていた。












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