朝起きて携帯の時計を見ると8時35分。俺は一瞬思考が止まり、その次には思い切り叫んだ。

「ぅ、ぎゃあああああああっ」
















前日、教室で夏目と城山とばば抜きをしていたら、いきなりどこからか姫川がやって来て参戦を申し出てきた。もちろん、俺は拒否した。こいつが関わるとろくなことがないんだ。なのに、夏目がいいよーとか笑って言うから、姫川は近くにあった椅子を勝手に使って我が物顔でカードを配り始めた。マジ夏目いっぺん死んで来い!

「なぁ、さっきから思ってたんだが、てめえらただばば抜きやってて楽しいわけ?」

突然の姫川の発言に、俺は首を傾げる。ってか、さっきからって・・・いつから見てたんだ?

「楽しいけど」
「へえ、ある意味羨ましいわ、その単純さ」
「てめえケンカ売ってんのか!?」
「なぁに姫ちゃん、何か賭けたいの?」
「昼飯とかか?」

夏目と城山の問いに、姫川は鼻で笑って答える。俺は無視かこのヤロー!?

「賭けたいってか、その方が盛り上がりがあるだろ?普通。あと、昼飯なんて今時賭けねーだろ」
「・・・・・・なら何だよ」
「んー、実はちょっと困ったことがあってな」
「?」
「珍しいねぇ」
「・・・ちょっと料理しなきゃいけなくなってよー」
「料理!?」
「おう、しかもスーパーとかで買い物からやんなきゃならねえ」

マジかよ。姫川が料理?・・・・・・つーかスーパーって、いや、それ以前にそれって何か困る要素あるか?
俺が不思議に思っていると、夏目が面白そうな話だと食いついた。

「なになに?姫ちゃん!何で料理とかすることになってんの?」

あからさまに面白がってる夏目にうんざりして、姫川は舌打ちをした。

「親とよぉ、一人暮らしで自炊してるか、って話になってな。そんでちょっと・・・口論になって」
「ふうん、その結果?」
「まぁな。親に作ったもん食わせなきゃならなくなってよ」
「へー」

忌々しそうに言う姫川にどうでもいいと思いつつ、それと賭けと何の関係があるのか気になって訊いてみた。

「つーか、それと賭けって何か関係あんのか?」

俺の質問に、姫川は軽く頷く。

「俺料理とかしねーからよ。あとスーパーでの買い物も。誰かに付きあわせよーと思ってよ」
「・・・つまり料理を教わろうってか?」
「ああ」

うわー、絶対そんな罰ゲームいやだわ。姫川に何かを教えるってのは愉快だが、いろいろうるさそうだしなぁ。
そんなことを考えながらヨーグルッチを飲んでると、夏目が笑いながらとんでもないことを言いやがった。



「あはは、そんなん賭けにしなくても、神崎くんに教えてもらったらいいじゃない」
「はああ!?夏目!?」
「あ?・・・神崎?」

夏目の言葉に、姫川は俺をサングラス越しに見る。その目は、こいつ何かの役に立つの?って感じだ。マジ腐って死ねばいいこのフランスパン・・・。

「神崎くん、料理上手だもんねぇ」
「・・・・・・へえ」
「・・・っ、そんなら、城山でもいいじゃねーか!」

そう叫んだ俺を無視して、夏目と姫川は話を進めて行く。

「ふうん・・・、神崎がねえ」
「ね、いい考えでしょ?」
「ま、この際神崎でもいいか」
「いいかって何だこのフランスパン!」
「夏目、俺は反対だっ」

おう、言ってやれ城山!

「神崎さんと姫川を二人にするなんて、絶対ケンカになるに決まってます!それで・・・もし料理中にケンカになったりでもして神崎さんが包丁で怪我をしたら・・・・・・俺はっ、俺はっ!」

既に半ベソになりながら叫ぶ城山に俺はとりあえず冷めた目を向ける。こいつは心配性過ぎだっての。夏目は笑いながら城山を宥めた。

「まーまー、いくら神崎くんでも料理中にケンカなんかしないって」
「しかし・・・」

つーか、

「それでなくても、俺は嫌だからな。姫川のお世話なんてよ」
「・・・ま、神崎には荷が重いわな」
「あ゛?」

今姫川から聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが・・・?

「料理ができても、人に教えるのは無理だよなぁ。バ神崎には」
「それくらいできるわああああ!」
「なら、明日の朝9時、寝坊すんなよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え゛?」



















姫川に無理やり約束を取り付けられ、起きたのは約束の時間の25分前。集合場所にした公園は歩いて15分かかる。俺は布団から飛び起きて顔を洗う。いくら無理やりでも、約束は約束なので急いで仕度をした。てきとーな格好で行こう、とジャージに手をかけた時、ふと俺は考えた。

ジャージ、でいいよな?姫川もどうせフランスパンにアロハだろ?あー、でも行くのスーパーだしなぁ。スーパーにフランスパンはないか?だとすれば髪下して普通の格好か?それで俺はジャージ?いや、でも二葉との遊園地もジャージだったろ、俺。
変に気ぃ入った格好して勘違いされても困るし、料理もするわけだしな。汚れたりはしないと思うが、念には念を・・・・・・。

「・・・・・・って、56分!?」

時計を見て、俺は手に取っていた服を着て急いで家を出た。










走って公園に着くと、時間は9時10分。途中変なのに絡まれたから余計遅くなった。汗を拭いながら姫川を捜すと、だるそうに携帯をいじりながらベンチに座っていた。つーか、いつものフランスパンにアロハだし・・・っ。
姫川は俺に気付くと、小さく舌打ちをするとこっちに向かって歩いてきた。

「おせーよ」
「はぁ、・・・・・・うっせ」
「? 何息切れしてんだ。んなに走ってきたのか?」
「・・・・・・・・・・・・」

無言の俺に何を思ったのか、姫川はそれ以上怒ろうとはせず、俺の呼吸が整うまで待った。何だか気恥ずかしくなって、大きく深呼吸をして姫川を見た。



「・・・てか、」
「あ?」
「てっきりジャージで来るもんだと思ってたわ」
「・・・・・・っ」

姫川は俺を上から下までマジマジと見る。そう、いろいろ考えた結果ジャージは止め、タンクトップにビンテージのジーパンという格好になった。姫川にあまり見せたことのない格好で、何だか居た堪れねえ。

「俺だって、ジャージ以外も持ってるわ」
「いや、それはそうだろうけど・・・」
「?」
「何、俺と二人っきりだからおめかししてきたのかと思ってよ」
「なっ」


一気に顔に熱が集まる。姫川は冗談で言ったんだろうけど、俺は気が気でない。・・・そう、俺は・・・・・・最近になって姫川のことが気になり始めた。別に何か親切にされたとか優しくされたとかではないのに、いつの間にか好き、になってた。
ちくしょう、何で姫川なんだよ。













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