土曜日、久しぶりに神崎とデートをしようと待ち合わせ場所で待っていると、ポケットに入れていた携帯が震えた。誰だ、と届いたメールを開くと送り主は待ち人の神崎。

「どうしたんだ?」

メールを開くと、件名もなく本文に一言、『悪い、風邪ひいた』とあった。俺はメール画面を閉じ、執事に車を寄こすように連絡をする。どこへ行くって?もちろん、神崎の見舞いにだ。












少し離れた所で車を降り、神崎の家を目の前にして俺はおお、と少しばかり感嘆の声を上げた。ドラマの世界だけだと思ったが、本当にヤクザってこんな家に住んでんだなぁ。何だか神崎に似合わなくて少しだけ笑った。
門をくぐろうとしたら、強面な男達に止められる。おお、マジもんだ。と余裕ぶってもいられない本物のオーラに少し冷や汗を流した。

「おいコラ坊主。何してんだ?」
「あー、かん、・・・・・・一くん、のお見舞いに来ました」
「・・・・・・若の?」

本当に若とか呼ばれてんだ。思いながら、神崎が寄こしたメールを見せた。すると声を掛けてきた奴の隣のヤクザがもしかして、と俺を指さす。

「てめえ、姫川とか言う奴か」
「あ、はい・・・」
「姫川?知り合いかよ」
「いや、今日若が寝込む前に遊びに行くって言ってた奴だよ」






隣の奴のおかげで、俺は無事神崎の部屋の前まで来ることができた。まったく、会うだけでこの苦労かよ。警戒が半端ねえよなぁ。ヤクザだから当たり前だけど。


「若、ご学友がお見えです」

神崎に声を掛ける時、トーンが少しだけ優しくなった。ふうん、大事にされてんだ。ま、あの性格からして周りに甘やかされてきたんだろうけどよ。俺はちょっとだけ面白くなくなる。・・・別に、神崎の家族に嫉妬しているわけではない。断じて。

部屋に入ると、神崎は布団に潜りながらこちらを見て驚いたように目を見開いた。熱のためか顔が赤い。呼吸も少しつらそうだ。

「・・・ひ、め?」
「よー」

手を上げながら近付く。舎弟のヤクザは失礼しますと言って下がって行った。




「・・・・・・どう、して?」
「恋人が寝込んでたら、普通見舞いにくるだろ?」
「ちょ、恋人とか・・・っ」

家の奴らに訊かれたら困るからか、神崎は焦る。

「へいへい」
「・・・拗ねんなよ」

拗ねてねーし。


「・・・・・・熱はあんのか?」
「微熱だけどな・・・体がだりぃ、ってのが一番だ」
「そっか。ま、あんま熱なくて良かったわ」
「おう。・・・・・・本当は行こうと思ったんだけどよ。家の奴らがうるさくて」

申し訳なさそうにする神崎の頭を撫でてやる。気持ち良さそうに目を細め擦り寄ってくる神崎がかわいくて少々ムラっとした。病人だから自重するけど。

「当たり前だろ、無理すんなよ。・・・・・・デートなんていつでもできるだろ?」
「・・・・・・ん」

風邪でだるいせいかいつもより大人しい。ああもう、かわいいなぁこの野郎!ここが神崎の家じゃなかったら抱き締めてキスしてる。絶対怒られるからしないけど。・・・・・・あ゛ー、今から俺ん家に連れて行くかなマジで!
そんなことを考えていると、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。黒い髪をオールバックにしていて、知的そうな眼鏡をかけたスーツを着た男だ。男は俺を見て驚き少し目を見開いた。直ぐに神崎の方を向き声をかける。

「一、 大丈夫かい?・・・・・・こちらの方は?」
「あぁ、大丈夫だ。兄貴」
「・・・・・・兄貴」

兄貴、って神崎の、だよな?・・・・・・に、似てねえ!兄の方はどっちかってーとエリートリーマンって感じだ。
神崎は俺の方をチラリと見て、友達、と紹介した。ま、しょーがねーわな。俺もそこまでガキじゃねえ。神崎の立場も分ってるつもりだ。俺は神崎兄に挨拶をする。

「どうも、一くんの友達の姫川です」
「へえ、一に夏目くんと城山くん以外の友達がいたとはね!初めまして、兄の零です」

人の良さそうな顔で笑う神崎兄に俺も軽く会釈をする。とてもヤクザには見えないよなぁ。
神崎兄は神崎に近付くと額に触り熱を確認した。それを神崎は慌てて振り払う。俺の前でガキ扱いされたくないんだろう。

「や、やめろって!」
「何だ?変な奴だなあ」
「〜〜っ!もう、兄貴は出てろよ!ダチ来てんだからっ」

神崎が怒鳴ると、神崎兄は面白くなさそうに眉をよせ、肩を竦めた。

「はいはい、どうせ俺は邪魔物ですよ」
「・・・は、あ?」
「一は俺より友達の方が大事なんだろ?」
「・・・・・・バカか!?」

何だ、この会話。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。ガキ扱いとかじゃねえ、この兄。かなりのブラコンだ。年頃の奴なら家族に友達とのやり取り見られたくねえの普通だろうよ。

「・・・・・・つーか、っごほ、ケホッ」

怒鳴ったせいか咳き込み始めた神崎の背中を擦ってやる。

「大丈夫か?」
「・・・ケホッ、・・・・・・おー」

苦しいのか、涙目でこっちを見てくる神崎にまたもやムラッときた。ちくしょう、神崎兄さえ居なかったらなぁ。
俺達のやり取りを見ていた神崎兄は面白くなさそうな顔をする。露骨だな・・・。

「一、 俺が水持ってきてやろうか?それとも姫川くんに飲み物とお菓子がいいかな?」
「・・・・・・・・・・・・姫川に持ってきてやってくれ」

ため息をついてそう言う神崎に満面の笑みを向け、神崎兄は出て行った。何だか嵐のような人だったなあ。



「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・お前、兄貴と似てねーな」
「悪かったな。知的じゃなくて・・・」

恨めしそうに俺を睨む神崎に、俺はニンマリと笑って見せる。

「いんやぁ?俺は今の神崎一がだぁい好きだからな」
「・・・・・・・・・・・・っ」

そう言ってキスしてやると、真っ赤な顔をして布団に潜ってしまった。初なヤクザもいたもんだな。
俺は楽しくなって布団を剥がすとマジマジと神崎の顔を見る。

「はは、顔真っ赤」
「うっせ」
「な、風邪治ったらどこにデート行く?」
「・・・ん、海かプール・・・・・・行きたい」
「へえ?」
「・・・夏と言えば海かプールだろ?」

そう言って小首を傾げる神崎に思わず額にキスをした。かわいい。かわいすぎる。つーか、水着姿の神崎を拝めるとか、今からどっかの島おさえとくかなぁ。

「ニマニマすんな、変態」
「ニマニマすんだろ、男なら」
「・・・・・・死ね」

かわいくないことを言う神崎にキスしてやろうとした時、部屋のドアが開いて神崎兄が入ってきた。さすがに、俺も固まる。

「はじめー、持ってきた・・・・・・ぞ・・・・・・・・・・・・」

神崎兄も俺達を見て固まる。部屋に不穏な空気が漂った。



「一・・・・・・、詳しく説明しなさい」


神崎兄は真面目な顔になると、仁王立ちで俺達を睨んだ。神崎を横目で見ると、口を引き攣らせながら冷や汗をかいている。俺と目が合うと恨めしそうに睨んだ。
いや、マジで悪かった・・・・・・。















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