神崎は授業をサボって屋上で昼寝をしていた。夏になりめっきり暑くなったが今日はそこまで日射しも強くなく風もあり昼寝には調度良かった。うとうととし始めた時、屋上のドアが開き誰か来たことが分かった。誰だよ、と舌打ちして顔を向ける。

「・・・・・・・・・・・・ゲッ」
「神崎、何してんだ」

見下ろしてくる姫川にどう見ても昼寝だろ、と悪態をつき胡座をかいて座る。姫川の前で無防備になるのも嫌だったし、見下ろされているのも不快だった。だが向き合うのも嫌なので背を向けた。さっさとどっか行け、と念じつつ目を瞑るとまたうとうととしてきてふるふると首を振る。

「・・・・・・・・・うー」

神崎は小さく唸り、早く寝たいのにと姫川を恨む。
ふと、大きな影がかかったのを感じ目を開ける。大きな雲かと思ったら影の形がフランスパンだったので姫川だと分かった。いったい何だ、と振り返る前に何かに後ろから抱き締められ動きが止まった。

「・・・・・・あ゛?」

何か、と言ってもここには神崎と姫川しかいない。だから当然姫川に抱き締められたことになるのだが、神崎としてはそんなことされる理由も分からなければそんな現実も受け入れたくない。だが理解した途端、全身に鳥肌が立った。

「な、に・・・・・・してんだ、コッルラァ!!!」
「何って、抱き締めてる」

平然と言ってのける姫川に青ざめる神崎。じたばたと暴れるが姫川は神崎を離すまいとより力を入れた。そのため苦しくなり、神崎は抵抗を止め小さく呻く。それに気付いて、姫川も力を抜いた。

「い、ったい・・・つーの」
「悪い」
「そう思ってんなら離せよ・・・」
「それはできねー相談だな」
「何でだああああああ!!!?」

意味が分からないと叫ぶ神崎に、姫川はため息とつく。

「実はよぉ・・・」
「あ゛ぁ?」
「・・・・・・・・・・・・」

神崎は急に黙る姫川に何だよ、と怪訝に思い首を傾げる。姫川は少し間をおいてポツリと呟いた。


「・・・好きなんだよ」
「へ?」
「好きなんだわ、お前が」
「・・・・・・は?」

言われた意味が分からずポカンとしていたが、理解した途端、神崎はまた暴れ出した。

「な、て・・・めえ・・・!離せっ」
「離したらお前逃げんだろ」
「当たり前だ!!」
「これ以上何もしねえから、落ち着けって」

そう言って離す気のない姫川に、神崎は抵抗を諦めて黙った。神崎は内心ビクビクとし冷や汗を流す。男に抱き締められて嬉しい者などそう居ない。
抵抗しないことに満足したのか、姫川は少しだけ力を入れより体を密着させた。ビクリと神崎が震える。

「ひっ」
「・・・ひって、何だそれ」
「てめ、えのせいだろ・・・」
「神崎さあ」
「・・・・・・んだよ?」

急に真剣な声を出す姫川に、神崎も声のトーンを落として答える。

「俺はお前が好きなんだよ」
「・・・・・・」
「てめえは、俺が嫌いかよ?」
「嫌い・・・とか、そういう問題じゃねーだろ・・・」

姫川と神崎は仲の良い友達だったというわけでもないし、何かを競い合うライバルだったわけもない。言わば敵だったのだ。好きとか嫌いとか以前の問題だ、と神崎は思った。

(てか、俺ら男同士だし・・・・・・)



神崎が黙ると、姫川は少し考えて神崎の髪に鼻を埋め、匂いを嗅いだ。

「お前良い匂いすんなー」
「な、何して・・・っ」

神崎は焦って頭を振る。

「さっき・・・な、何もしねえって」
「んー・・・、悪ぃ。つい」
「つ、ついって・・・」

神崎はあまりのことに目に水の膜を作る。それに姫川は抱き締めたい衝動にかられたが必死に耐えた。

「お前かわい過ぎ。泣くなよ」
「泣いてねーよ!」
「もっといろいろしたくなるだろ」
「・・・・・・・・・・・・っ!」

神崎は悪寒が走るのを感じ、体を強張らせた。姫川はそんな神崎の様子にからかいすぎたか、と思い優しく頭を撫でた。

「冗談だよ。落ち着けって」
「・・・・・・お、落ち着いてるしっ」
「はいはい」

軽くあしらう姫川に神崎は唇を尖らせ拗ねたように膝を抱えた。

(・・・・・・本当にいろいろするぞこの野郎)

理性をフル動員させ欲望を抑えると、神崎に再度問いかける。

「なあ、俺が嫌いか?」
「・・・・・・っ」

神崎は怒鳴ろうと思ったが、姫川が真剣な表情をしていたため黙り考える。

嫌いか、と言われれば嫌いではないと思う。殴り合いのケンカは何度もしたし、死んでほしいと思ったことすらある。しかし、三年になって共闘したことも確かだ。それからは、ケンカはするもののそこまで邪魔な存在とは思わなくなった。

(でも好き、ってのもなあ・・・)

神崎はうんうん唸りながら首を捻る。思いの外真剣に考えている神崎に、姫川は頬を緩ませる。とりあえず速攻拒絶されることはないようだ。そのことが少なからず異常であることに神崎は気付いていない。普通友達であっても、男が男に告白されれば断ることを第一にするはずだ。それをしないということは・・・。


「期待してもいいのかねぇ」
「? 何か言ったか?」
「何にも」
「ふうん」

小首を傾げつつ、神崎は先ほどの問いに答える。

「姫川」
「ん?」
「てめえのこと、まあ・・・百歩譲って、嫌い・・・・・・ではねえけどさぁ」
「おう」
「好きかどうかは、よく分かんねえ」
「・・・・・・そっか」

頷いて、姫川は黙る。神崎は傷付けたか、と姫川の様子をうかがうが俯いているため顔がよく見えない。

(つーか、何で俺がこんな気まずい思いしなきゃなんねーんだよ。つーか好きって何だ。こいつ女好きじゃん。俺のどこが好きなんだよ、意味分からん!)

考えながら段々腹が立ってきたのか、神崎は眉を寄せる。姫川にいい加減離れろ、と要求しようとした時、項辺りにふにっとした物が当たったのを感じた。

「・・・・・・へ?」
「あ・・・・・・ムラムラして、つい」

神崎は項を触りながら、今起こったことを冷静に理解しようとした。
項に当たった柔らかい物。リーゼントが当たったわけではないだろう。指の感触でもなかった。

「え・・・・・・ひ、めか・・・・・・」
「・・・うん、悪い」
「今、う、ううう項、に・・・き、きききき」
「・・・キスした。悪かった、悪かったから落ち着け」
「〜〜〜〜っ!へ、変態ぃぃいいいい」

激しく暴れ出した神崎に慌てて、姫川は思わず羽交い絞めにしてしまった。上から押さえつけられた神崎は盛大に誤解して、顔面蒼白になり叫ぶ。


「ぎ、ぎゃあああ」
「違うって、落ち着け神崎!」
「落ち着けねえよ!バカか!?いいから俺の上からどきやがれ!」
「だってお前逃げるじゃん!」
「逃げるわ!そりゃあ逃げるわ!貞操の危機に逃げないわけねーだろ!!」
「貞操とか言うなバ神崎!そんなんじゃねーんだってっ」



怒鳴り合っていると、屋上のドアが開き夏目と城山がやって来た。

「神崎くーん、ヨーグルッチ買ってきた・・・・・・よ」

夏目と城山は、神崎が姫川に押し倒されている光景を目にして、驚き固まったかと思うと次の瞬間には鬼のような形相で姫川に迫った。

「姫ちゃ〜ん、何してるのかなぁ?」
「姫川ぁ!神崎さんを離せぇええ!!」

姫川は鬼と化した二人に弁明しようと焦るが、何か言う前に夏目に蹴られた。その隙に城山が神崎を姫川から引き離す。

「大丈夫ですか!?神崎さん!」
「お、おう・・・」
「夏目落ち着け!誤解だっての!」
「往生際が悪いよ、姫ちゃん」

神崎は夏目に追い詰められている姫川を見つつ、項を抑えた。

「・・・・・・・・・・・・」
「どうしました?神崎さん」
「あ、いやー・・・・・・何も」
「?」


(驚いたけど、嫌では・・・・・・なかったんだよなぁ)










「さあ、お仕置きの時間だよ」
「だから誤解だって言ってんだろーがっ」
















なんか収集がつかなくなって夏目と城ちゃんにおさめてもらった感じ(苦笑)
いつかは違う話でこういうのリベンジしたい・・・!





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