まだ神崎に飲ませたことのない酒をてきとーに取って部屋に戻ると、神崎は既に少しできあがっていた。はやくね?と呆れるが、神崎は酒に強い方ではないので、まあ仕方ないかとため息をつく。

「お〜、姫川ぁ」
「・・・勝手にできあがってんじゃねーよ」
「? でき・・・??」
「はあ、まあいいか」

神崎の隣に腰を下ろすと、俺の持ってきた酒に目をキラキラさせて食いついた。

「お!酒じゃん!」
「・・・まだ飲めるの?お前」
「飲める!」

笑顔で即答する神崎を疑いながら、言っても聞かないだろうと酒を注いでやった。嬉しそうに飲む神崎に、何故か頬が緩む。それが何だか気恥ずかしくて、誤魔化すように俺も酒を飲んだ。


「姫川ん家の酒はうまいなぁ」
「ま、高いしな。でも神崎が持ってきてくれた日本酒だって美味かったぜ?」

そう言うと、嬉しそうにはにかむ神崎。

「・・・・・・・・・・・・」
「ん?どうした、ひめかわ?」
「何でもねー」

俺も結構酔ってんのかな。神崎が、かわいく見えるとか・・・。
ちびちび飲みながら横目で神崎を観察する。確かに、酒飲んでる時の神崎はよく笑うしガキっぽいし、いつもと違ぇ。だが面白いってのはあっても、かわいいってのは意味が分からない。

「ひめかわぁ」
「あ?」
「水も飲みてえ。喉渇いたー」
「・・・自分で取りに行けよな」

考え事をしていたら、神崎の甘えたが始まった。擦り寄るようにして水を要求してくる。こういう所がガキっぽいよなあ。こうなると自分ではまず動かなくなるので、俺は文句を言いつつ立ち上がる。最初は甘やかすのも、と抵抗してみたが、別に酒飲んでる時まで神崎の躾しなくてもと止めた。
水を渡してやると、こくこくと喉を鳴らして飲み始める。ま、酒は味濃いから喉も渇くか。急いで飲むもんだから、口の端から少し水が零れていく。

「零してんぞー」
「んー、っぷ、はっ」

仕方がないので拭いてやる。本人に拭う気はないみたいだし、濡れるのは俺ん家の床だ。拭いてやっていると、急に神崎が立ち上ったので驚いて思わず少し後ろに倒れた。

「神崎?」
「・・・しょんべん」

そう言ってふらふらとした足取りでトイレに入って行った。あいつ本当酔うの早いよなあ。ヤクザの家系で、あれは大丈夫なんだろうか。
トイレから戻ってきた神崎に気になったことを訊いてみる。

「なあ、神崎」
「んー?」
「お前、家で酒飲む時もそうなの?」
「は?」
「だーかーら、ヤクザの集まりとかで飲む時も、そんなべろんべろんになっちまうのか、って訊いてんの」
「ん?んー・・・・・・」

だって、神崎の家の者にならまだいいだろうが、他の組の奴らにこんな姿見られた日にゃ、嘗められちまうだろ。

「別に、普通」
「・・・・・・」
「あんま飲まねーように、してっし」
「ふうん、なら・・・いきなり擦り寄ってきたり我が儘要求したりはしてねえんだな?」
「? してねえよ?」

酔って舌っ足らずではあるが、はっきりと頷いた。
ふうん、そういう所はしっかりしてんのかね?まあ、自分と家の将来に関わることだもんな。


「何でンなこと訊くの?」
「あ?・・・・・・ま、気にすんな」
「ふー・・・ん、」

納得したのかしてないのかは分からないが、俺の膝を枕にして寝ようとするので焦って止めた。

「おい、ここで寝んなよ!?」
「んー・・・」
「ベッド行け、ベッド!」
「・・・・・・・・・・・・」

ムスッとした顔で俺を睨んでくる神崎。いったい何だと呆れれば、神崎は俺の袖を掴んでぐいぐいと引っ張った。

「何だよ」
「ベッドで寝てやる、から連れてけ」
「・・・・・・はあ」
「俺は寝たい」

俺だって寝てえよ。

仕方がないから肩を貸してやる。ベッドまで引きずってやると、ベッドにダイブしてうとうととし始めた。俺も違う部屋のベッド行くか、と立ち上がった時、再度神崎に袖を引かれた。

「今度は何」

半ば呆れながら訊くと、神崎は心なしか楽しそうに言った。

「ひめかわも、一緒に寝ればいいだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

思わず顔が引き攣った。この酔っぱらい、今何と?
空耳かという俺の願いは、神崎の言葉で打ち砕かれる。

「お前もー、ここで〜寝ればいいだろ!」
「いやいやいや、もういいから寝なさいこの酔っぱらい!」

思わず敬語になってしまった。男二人で同じベッドとか笑えない・・・。
神崎は暫く俺を睨んでいたが、もういい、と拗ねたように布団に包まった。それにホッとして、俺は寝室を後にした。





















次の日、なかなか起きてこない神崎を不思議に思い寝室に入ると、神崎は苦しそうに唸りながら布団に包まっていた。

「神崎ー?どうした?」
「・・・あ、たま・・・・・・痛ぇ」

あー、二日酔いか。お前持ってきた日本酒一人で半分くらい飲んでたもんな。
そう納得して、頭痛薬と水を持ってきてやる。

「ほら、飲め」
「んー・・・・・・、さんきゅ」
「おう」

薬を飲み終わると、神崎は俺を怪訝な顔で見てきた。

「何だよ」
「俺って、いつベッドに入った・・・っけ?」
「あぁ?覚えてないのかよ」
「・・・・・・おう」



仕方がないので、昨日合ったことを全部教えてやった。すると、みるみる内に神崎の顔が真っ赤になっていく。やば、面白ぇ。

「お、おおおおお俺、」
「ま、落ち着けよ」

そう言うが、神崎はぶんぶんと首を振って俺から離れる。まあ、男に一緒に寝ようとか言ったら恥で死ねるわな。あー、笑いが止まらねえ。腹を抱えて笑っていたら、神崎は半ベソをかきながら片言でまくし立てた。

「風呂入る!着替える!出てけ!!」


それすら面白くて、俺は素直にしたがった。













暫くして、神崎がのそのそとリビングにやってきた。表情からして、頭痛は治まったようだ。

「よお、飯食うだろ?用意できてっぞ」
「・・・・・・・・・」

返事がない。ブスッとした顔でじっと床を見つめている。確かに神崎は小食すぎるくらいだが、用意されてりゃ手をつけるくらいはする。もしかしてまだ頭痛がするのかと気になって訊いてみる。

「どうした?まだ頭痛ぇのか?」
「・・・頭は痛くねえ」
「は?ならはやく食えよ」

冷めちまうぞ、と腕を掴むと神崎は驚いたように俺の腕を振り払らい後ろに飛び退いた。

「か、神崎・・・?」

これはさすがに俺も驚く。

「どうしたよ・・・?」
「・・・か、帰るっ」
「へ?」
「飯、いらねーから!・・・じゃあ!」
「あ、おい!?」

止める間もなく、神崎はダッシュで部屋を出て行った。止めろようとした右手が虚しい。ってか、どうしたんだ?いつもなら酒飲んだ次の日も、朝飯食ってだらだら漫画読んだりゲームしてから帰るってのに。俺は唖然として、暫くそのまま立ち尽くした。



別に、酒を一緒に飲むようになったからって、神崎と仲良くしてぇとか友達になりてぇとか思ってるわけじゃない。むしろそんな俺達は気持ち悪いとすら思う。なのに、この喪失感というか焦燥感は何だろう。俺は、いったい神崎に何を感じていたのか・・・。まあ、神崎としては自分の失態が恥ずかしすぎて帰った、って所だと思うんだが。・・・・・・・・・あー、ちくしょう、らしくねー!


「どっちにしろ明日学校で会うんだし、いいか」



そう無理やり自分を納得させて、俺は神崎のために用意した朝飯を掻き込んだ。












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