屋上で神崎くんと城ちゃんとで昼飯を食っていたら、飲み物を買ってないのに気付いて、一人自販機に向かった。





「んー、今月ピンチなのになぁ。でもバイト増やすのもあれだし・・・」

独り言を言いながら廊下を歩く。別にいつも三人でいるわけじゃないけど、なんかスースーして変な感じ。らしくなくて、一人くすりと笑った。
自販機についてお茶を買う。神崎くんが愛飲しているヨーグルッチが目に入って、ついでだし買っていこうとボタンを押す。すると、横から見慣れた銀髪リーゼントが歩いてくるのが見えた。

「あ?夏目か」
「・・・・・・姫ちゃん」

無意識に、冷たい声が出た。それに気付くことなく、姫ちゃんは缶コーヒーを買う。
神崎くんもいないし、調度いい。俺は姫ちゃんにいつもの調子になるよう心がけ、話しかけた。


「ねぇ、姫ちゃん」
「あー?何だ?」
「あのね、ちょっと話しがあるんだけど、いいかな?」
「・・・珍しいな」















空き教室に入って、てきとーな所に座る。興味なさそうにケータイをいじっている姫ちゃんに、どんどん黒い物が溜まっていく。
神崎くんは、神崎くんがあんなに苦しんでいるのに。あんなに、泣いていたのに・・・!
もう我慢の限界だった。いきなり、本題に入る。


「姫ちゃんはさぁ」
「おー」
「神崎くんのこと、本当に好きなの?」
「・・・・・・・・・・・・」

姫ちゃんはゆっくりケータイから目を離し俺を睨むと、あ?と聞き返してきた。

「だから、神崎くんのこと好きなの?」
「何言ってんだてめえ、好きに決まってんだろ」

じゃなきゃ付き合うか、と姫ちゃんは言う。
ふうん、そうなんだ、ならさ、何で・・・何で・・・?

「へー。ならさ、何で浮気すんの?」
「・・・・・・・・・」

姫ちゃんは何も答えない。どう答えても自分が不利になるのを分かっているからだ。
それをいいことに、俺は喋り続ける。

「ね、何で答えてくれないの?・・・なら、俺が勝手に解釈していい?」

沈黙。オッケイってこと、かな?

「んー、やっぱり女の子の柔らかい身体が恋しい?それとも誘いを断るのが面倒だから?・・・・・・でも一番の理由は、」
「・・・・・・・・・・・・」


あぁ、口に出すのも忌々しい。



「長続きする関係じゃないって思ってる、から?」




ここまで言っても、姫ちゃんは何も言わなかった。きっと、全てが正解なんだろう。
あぁ、本当に本当に本当に・・・・・・なんでこの男なの神崎くん。
この間の泣いている神崎くんを思い出して俺も泣きたくなった。けど、そんなことしても目の前のこの男には一ミリたりとも伝わらないのだ。神崎くんの、苦しみなんて。そんなことを考えつつ、何も言わない相手に段々と苛立ちが募っていく。それでもニコニコと笑みを絶やさない自分を褒めてやりたかった。



「俺はさあ、姫ちゃんのことが嫌いなわけじゃないんだよ。面白いしさあ」

これは、本当。

「でもね、神崎くんの恋人としては失格だし、嫌いだな」

こっちは、もっと本音。俺は笑みを止め、姫川竜也を見据えた。
もし姫ちゃんが女の子やプライドをかなぐり捨てて神崎くんを愛してくれたら、嫉妬することはあっても嫌悪することはなかっただろう。でもこの男は、早々に見限ったのだ。神崎くんとの可能性を。性別だけではない、姫ちゃんと神崎くんには「家」という絶対的な壁がある。その壁にいつか本当にぶち当たり、敗北することを姫ちゃんは・・・、姫川は勝手に受け入れた。勝手に、もがくことを頑張ることを足掻くことを辞めて諦めた。神崎くんを残して。
神崎くんは、一人であんなに現実と戦っているのに・・・。姫川はそんな神崎くんを知っていて、神崎くんをも見限ったんだ。




「・・・・・・てめえは何が言いたい」

唐突に、姫川が口を開いた。
何が言いたい・・・。何が言いたい・・・・・・?



「神崎くんが、泣いてたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、姫ちゃん。神崎くんはね、とっても強い人だよ。でもね、」

段々と俺の中の怒りがしぼみ、悲しみが広がっていく。神崎くん神崎くん神崎くん・・・!

「神崎くんは、きちんと傷付く子なんだよ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

それでも姫ちゃんは何も言わなかった。俺は諦めて席を立つ。姫ちゃんに背を向けて、最後に伝えなくてもいいことを付け加えた。



「俺ね、神崎くんに伝えたよ」
「・・・・・・何をだ?」
「・・・好きだ、って。神崎くんに言ったんだ」

俺のその言葉を聞いて、姫ちゃんが勢いよく立ち上がったのが背を向けていても分かった。俺は無意識に口の端を上げる。

「俺の方が、神崎くんを幸せにできる」
「夏目・・・・・・てめえっ」
「俺は姫ちゃんと違って、神崎くんを諦めたりしないから」
「・・・・・・っ!」
「・・・ね、神崎くんは姫ちゃんの考えに気付いてるよ?」
「な、に・・・・・・?」


上手に愛してるつもりでいた?
そう言って笑うと、姫ちゃんに肩を思い切り掴まれ殴られた。口内に鉄の味が広がる。



「てめえは、・・・・・・結局神崎が欲しいだけなんだろっ!?」
「うん。俺は神崎くんが欲しい。好きな人が欲しいのは当たり前だろう?」

姫ちゃんは悔しそうに黙った。

「神崎くんは姫ちゃんの考えに気付いてる。だから、今の神崎くんはとっても不安定なの」
「・・・俺は、」
「優しくしてあげれば、今の神崎くんはきっと俺の手を取るよ」
「・・・俺は、神崎を本当に愛してる」
「あっそう。でも、諦めてるんでしょ?」


本当に忌々しい。自分は諦めたくせに、神崎くんには見限らないで欲しいなんて。どこまで我儘で自分本位なのさ。


「神崎くんは姫ちゃんにはあげない。姫ちゃんは神崎くんに相応しくないから」
「・・・・・・」
「神崎くんを悲しませて傷付けるだけの奴を、黙って見守るなんてしてやんない」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺は、神崎くんを幸せにする自信がある」



そう言って、俺は教室を出た。姫ちゃんは・・・何も言わなかった。

















「おー、夏目遅かったな」
「絡まれたのか?怪我は?」

屋上に戻ると神崎くんと城ちゃんが俺に気付いて声をかけてきた。城ちゃんなんかは心配までしてくれる。本当にお母さんみたいなんだから、と嬉しくて少し笑った。


「大丈夫だよー。絡まれてなんかないから」

そう自販機で買ったヨーグルッチを神崎くんに手渡した。姫ちゃんと話していたせいですっかり温くなってしまった。それでも文句を言わずに受け取ってくれる。そんな神崎くんに愛しさが溢れた。











神崎くんを傷付ける奴は、誰であろうと・・・・・・許さない。












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