最近の俺は、眼科と精神科に行かなければいけないらしい。何故ならば、あの神崎がかわいく見えるからだ。それはもう、これでもかという程に。
普通に考えて頬に傷のあるピアス野郎なんてかわいいはずがない。しかも短気だし素直じゃないし、男だし・・・。
いったい俺に何が起こったというのか。神様がいるならば俺が何をしたと問いただしたい。
「・・・わ・・・・・・かわ、」
あ?今考え事してんだよ、誰だか知らんが黙ってろ!
「おい、姫川っ!」
「!?」
ぐいっと服を引っ張られ、いい加減にしろと振り向けばそこにはしかめっ面で俺を睨んでいる神崎がいた。がんくれているため、顔が近くて心臓がバクバクとうるさい。なかなか俺が反応しなくて拗ねているのか、唇を尖らしているのが非常にかわいらしい。
やばい、キスしたい。・・・って何考えてんだ俺ぇええ!?
「か、神崎・・・何だよ」
できるだけ冷静を装う。どもったけど。
「・・・・・・っ、足!」
「足?」
意味が分からんと下を見れば、どうやら神崎の足を踏ん付けていたらしい。考え事しながら歩いてたから気付かなかったわ。一言謝って足をどけると、神崎はむすっとした顔で踏まれていた足をぷらぷらと揺らした。
「ったく、普通気付くだろーが」
「あー、考え事してたからよ」
「ちっ」
舌打ちをして、俺の横を通り過ぎると廊下を歩いて行く。教室に戻ろうとする意志とは逆に、口が勝手に神崎を引きとめた。
「神崎!」
「あ?」
廊下を歩きつつだるそうに振り向く神崎に小走りで追い付くと、隣に並んでついて行く。
「どこ行くんだ?」
「・・・自販機」
ヨーグルッチね、と納得する。
白い液体とかエロいよなー、・・・・・・・・・・・・って俺は馬鹿か!?横に神崎がいるってのに何考えてんだよ!!
頭を抱えて唸る俺をおかしく思ったのか、少し心配そうな顔で神崎が覗き込んできた。
「おい?何やってんだ・・・?」
「・・・・・・っ!」
声に反応して目を開けると、覗き込んできた神崎が当たり前に目に入る。神崎は俺より少し小さくて猫背だ。しかも今は少し屈んでいるため、上目使いで心配そうに眉を寄せている状態になっていた。
俺は思わず緩む頬を手で隠した。やべえ、上目使いパねぇ!しかも心配するとか何それツンデレかよ!?
「姫川・・・?」
何も返さない俺に神崎は訝しげに首を傾げた。小動物に見えるからやめろ!
「あ、あぁ、悪い。何でもねぇから」
「・・・・・・ふうん」
どうみても納得していない顔でしぶしぶ頷く神崎にホッとしつつ、俺は心なしか疼く下半身に冷や汗を流した。
冷や冷やしつつも無事自販機に着き、小銭を用意する神崎を見ながらせっかくだし俺も何か買うことにした。神崎は当然のように、ヨーグルッチを購入する。
「・・・・・・なあ」
「あ?」
「お前ってよぉ、ヨーグルッチ以外買ったことあるか?」
「ない」
即答。いやいやいや、どんだけヨーグルッチ好きなんだよ!?普通飽きるだろ!だって毎日飲んでるんだよな!?しかも一日一個じゃないんだよな!?
内心めちゃくちゃ驚きつつも、俺はコーヒーを買う。横目で神崎を見ると、ストローを咥えながら嬉しそうに頬を緩めてヨーグルッチを飲んでいた。
「〜〜〜〜〜っ!」
何だこの無防備な神崎は!笑ってるよ!ヨーグルッチで機嫌良くなってる、っつーかかわいいなこの野郎!
悶えつつも、俺はヨーグルッチじゃない、別の飲み物を神崎に飲ませたくて仕方がなかった。せっかくの二人っきりなんだ。いつも邪魔な夏目と城山はいない。もっといろんな神崎の反応が見たくて、落下口から取り出したコーヒーを神崎に差し出した。それに片眉を器用にあげて反応する。
「何だよ・・・」
「たまには他のも飲んでみねー?ヨーグルッチだけだと飽きるだろ」
「飽きねーよ!ヨーグルッチ馬鹿にすんな!」
「いや、馬鹿にはしてねーだろ・・・」
ムキになって怒鳴る神崎が幼く見えてかわいい。前はうるさくてうざってー奴だって思ったのに・・・。
「違う物飲んだら、新しいヨーグルッチの良さに気付くかも知んねーぜ?」
「・・・・・・」
「別に美味かったら、損するわけじゃねーしよ」
「・・・・・・・・・う、」
「な?」
ちょっと押せば、単純な神崎は少し迷って頷いた。コーヒーを渡すかわりにヨーグルッチを受け取る。まじまじとコーヒーを見つめると、意を決したように口を付けた。そんなに慎重にならなくても、と苦笑していると、神崎の顔色が段々と青ざめていく。
「か、神崎・・・?」
「う゛っ」
「!?」
「に、ににににっげええええええええ」
「おわっ!?」
大声で叫ぶと俺にコーヒーを押し付け悶絶しだした。苦い苦いと言う神崎の目には涙が溜まっていて、不覚にもときめいてしまう。神崎は苦さをどうにかしたいのかキョロキョロと辺りを見渡すと、思い出したように俺に飛びついてきた。
「神崎!?」
いきなりの至近距離な神崎に心臓がうるさくなる。そんな俺に気付くことなく、神崎は俺の手中にあるヨーグルッチを掴むと思いっきり引っ張った。
「苦い苦い苦い!はやくヨーグルッチ寄こせって・・・!」
「あ、ちょ、待っ・・・んなに引っ張ったら・・・・・・っ」
俺は驚いてヨーグルッチをすぐ放すことができなかった。そのため、紙パックから中身が飛び出してしまった。
「うわっ!?」
飛び出したヨーグルッチは神崎にかかってしまい、キョトンとした顔で固まった。俺は急いで謝ろうとして、同じく固まってしまう。
コーヒーの苦みで涙目になり、興奮していたことにより頬が赤くなった神崎が、白い液体(ヨーグルッチ)にまみれている。俺は一瞬にして先ほど浮かんだ妄想が頭に浮かんだ。
「や、ば・・・・・・っ」
思わず息をのむ。神崎は何が起こったのか分からず固まっていたが、俺の言葉で我に返り怒鳴った。
「こ、の、馬鹿野郎!ヨーグルッチ零れちゃったじゃねーか!」
胸倉を掴まれガクガクと揺さぶられる。しかし、俺は頭がボーっとして今だ白い液体にまみれた神崎が頭の中に浮かんでいた。
はやくこの映像を消さないと、やばい。俺の体裁と神崎の貞操がやばい!
俺は今すぐに誰かに殴って欲しかった。その願いが通じたのか、神崎に思いっきり殴られた。力を抜いていた俺は無様にも吹っ飛ぶ。背中と頭に強い衝撃を受け、やっとあの映像は消えた。痛みが和らぐのを待ってから体を起こす。
神崎は怒って肩で息をしていたが、やり返しても怒鳴り返しても来ない俺を不思議に思ったのか、おそるおそると言った感じに声をかけてきた。
「ひ、めかわ・・・?」
「・・・・・・あー、大丈夫だ」
「おう・・・」
ゆっくりと体を起こすと、神崎の方を見ないように懐からハンカチを出し差し出した。
「これ、やるから拭け」
「は?」
「いいから、拭けっ」
俺のためにも!
「・・・・・・さんきゅー」
神崎が顔を拭き終わるのを待つ間、俺は自分を落ち着かせようと深呼吸をした。まったく、心臓に悪い。何でこんなに神崎相手に熱くならないといけないんだ。・・・本当に病院行くかな。
「姫川、拭いたぞ」
「あ、おう」
言われて顔を上げれば、確かにいつも通りの神崎だった。それに安心して、俺はあることを思い出す。
「お前、苦いのはもういいのかよ?」
「・・・びっくりしてそんなんどっかいった」
それに、と小さく続ける。
「?」
「てめえも、何か変だったし・・・」
「え、」
「何か、今日・・・・・・妙にや、さしく・・・ね?」
「・・・・・・あー」
優しいというか、己の邪な妄想を消すためというか・・・。何だか申し訳なく思っていると、神崎が照れくさそうに少し笑った。それにまた頬が熱くなる。
「このハンカチ、洗って返す、からよ」
「は?いや、別に気にすんなよ」
「いいんだよ。俺が・・・そうしたいんだから」
「・・・・・・・・・・・・」
そういうと、じゃあなと言って去って行った。
うーん、律儀だなぁ。そういうところも、やっぱ好きだわ。
・・・ん?好き?
好き、という言葉が浮かんだ時、それはすとんと俺の胸の中に落ち着いた。
ああ、そうか。俺神崎のことが好きなのか。そりゃかわいく見えたり興奮したりするわけだ。逆に何で今まで気が付かなかったと自分に問いたい。
何よりも、反応してる下半身がその証拠だと思う。
我ながら最低だな、ととても晴れやかな気持ちで笑った。
書いてるうちに段々何が書きたいのか分からなくなってしまった(笑)こういうの苦手なのだろうか。好きなのになぁ(苦笑)
取り敢えず、ちょっと下品なネタで失礼しました!