城夏城、姫神前提。


















神崎が教室のドアを開けると、寧々が怪訝な顔をして首を傾げた。

「神崎、あんた夏目と城山は?」

一緒に出てったじゃない、と訊ねる。それに神崎はああと頷いて苦笑した。

「なんか今日あいつらの記念日らしくてよー。二人っきりにしてやってんだ」

神崎がそういうと、寧々も苦笑する。二人の仲は神崎と姫川に次いで石矢魔公認となっている。主に夏目のせいだが。
神崎は自分の席に座ると、斜め前にある姫川の席をチラリと見た。姫川は男鹿達とどこぞの学校に転校している真っ最中だ。帰ってくるのかも分からないが、今日の昼飯は一人で確定らしかった。そう思った時、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえ神崎はだるそうに振り返った。

「かーんざきっ」
「あー・・・?」

そこには東条一派が居り、相沢がおいでおいでと手招きしていた。神崎は意味が分からないと眉間に皺をつくる。それに東条が無邪気に笑った。

「神崎!一緒に飯食おうぜっ」
「いや・・・、だから何で」
「一緒に食いたいから」
「・・・・・・えー」

神崎は明らかに嫌そうな顔をするが、東条はそれに気付かず相沢は相変わらずニマニマと笑い、陣野は無表情で飯の準備をしている。いつも神崎を独占している三人の不在を東条達が逃すはずがなく、結局神崎は東条に捕まった。




「離せ!この筋肉野郎!!」

神崎は叫ぶが、東条達は気にすることなく話を続けている。

「虎、逃げないようにそのまま抱きかかえとけ」
「おう、わかった」
「東条さん、飯そのまま食えます?」
「俺は大丈夫だぞ」
「そりゃ良かった」

呑気に笑う東条達に神崎は今度こそ怒鳴った。

「俺はだいじょーぶじゃねぇぇええええ!!!」

神崎は、東条に後ろから二の腕ごと抱きかかえられており、東条の股の間に座っている状態だ。当然、自分で飯を食べることはできない。

「ああ、心配するな。飯なら庄次が食わせてくれる」
「そうそう、だから大人しくしててな」
「神崎はほっそいなー」

好き勝手に言う東条達に神崎は諦めてため息をついた。仕方ないと広げられた購買のパンを見て、好きなのを要求する。

「・・・・・・俺は焼きそばパンがいい。あとヨーグルッチ」
「わかった」
「神崎は細いからいっぱい食った方がいいぞ?」
「余計なお世話・・・・・・って、ひぁ!?」

突然神崎が甲高い声をあげた。何事かとクラスの目が集中する。
そこには東条から逃れようとじたばた暴れる神崎と、神崎の脇腹を撫でる東条が居た。

「う、この馬鹿!変な所触んなーっ」
「? 脇腹だろ?細いなぁ」
「くすぐってーんだよ!」
「東条さん、それセクハラっスよ」
「せくはら?」
「虎、やめてやれ」

陣野はそう言いながら近くに居た不良に自分のケータイ電話を渡した。ケータイを渡された不良は陣野にビビりながらも受け取り、言われたままにケータイを構えた。

「何だよ・・・?」
「ん、写メを撮ってもらう」
「はあ!?」

陣野の言葉に神崎は更に暴れだす。しかし常識はずれな東条の力に敵うはずなく、涼しい顔でじゃれていると勘違いされてしまった。

「撮った写メあとでこっちにも送れよな、かおる」
「庄次ずりー、俺もな!」
「分かっている。こんな機会めったにないからな」

神崎はここにいない夏目達を心の底から恨んだ。こんな恥ずかしい姿を撮られるとは、と唇を噛む。

(とくに姫川、帰ってきたら自慢のリーゼントをずたずたにしてやる・・・!)

「ほら、神崎ー。焼きそばパンですよー」

庄次が上機嫌な声で神崎の口元に焼きそばパンを差し出す。神崎はギロリと庄次を睨むと、がぶりと焼きそばパンにかぶりついた。その様子を不良がしっかりと写メに写す。
東条はその様子にワナワナと震えた。神崎が口だけで一生懸命焼きそばパンを食べる姿が、小動物がもふもふとえさを頬張る姿に見えたからだ。

「・・・・・・・・・!!!」
「虎?どうした震えて」
「東条さん?」
「・・・ん、ほうじょー?」

焼きそばパンを頬張りながら自分の名前を呼ぶ神崎に、東条はとうとう頬ずりしながらぎゅーっと抱き締めた。

「神崎ーっ!!」
「ふぎゃあああああ!?」

東条の馬鹿力に力いっぱい抱き締められて、神崎は悲鳴を上げた。骨の軋む音がリアルに聞こえてきて思わず目に涙を溜める。

「ちょ、馬鹿!この筋肉!!痛い痛い痛いってええええええ」
「かわいいなあ!神崎はっ!」
「東条さん、そのままだと神崎死んじゃいますよ?」

東条と神崎の様子に相沢は苦笑する。その横で陣野は目に涙を溜める神崎を連写するように指示していた。そして神崎を見て微笑する。ドSである。



「神崎ぃ、ごめんな・・・?」
「う〜〜、いってぇ」
「大丈夫かー?ほら、ヨーグルッチだぞ」

東条は申し訳なさそうに眉を下げながら神崎の頭を撫でる。相沢は痛がる神崎を宥めるようにヨーグルッチを与えた。










その後も、神崎は東条達にいいように遊ばれ、かわいがられて今までで一番疲れる昼食となった。相沢はわざと神崎の口が届かない距離でヨーグルッチをとどめて反応を楽しんだり、東条は相変わらず馬鹿力をフルに使って神崎にじゃれついた。そんな様子を黒い笑みで見守る陣野は、神崎の精神を蝕んだ。

「こんな疲れる昼飯は初めてだ・・・」
「俺達は腹いっぱいになったよなぁ。いろんな意味で」
「そうだな」
「ん?庄次とかおるは腹がいくつもあるのか?」
「東条!頬ずりすんな!!気持ち悪ぃっっ」

しかし、食べえ終わったことに神崎は安堵のため息をついた。この地獄から解放されるからだ。
だがその安心も、相沢の一言によって打ち砕かれた。


「そうだ、撮った写メ姫川のヤローにも送ってやろう」


神崎は一瞬固まって、覚醒すると慌てて叫んだ。

「な、何考えてんだよ!?んなことしたら帰って来た時何言われるか・・・っ」
「いやぁ、楽しみは皆で共有するものじゃん?」
「楽しみじゃねえええ!しかも思ってもないこと言うなあああああ!!!」

そう叫んでいる間にケータイを盗られ、陣野が姫川宛のメールを作成する。そして躊躇せず送信した。

「あ゛ああぁぁぁああああ!!」
「神崎うるせー」




神崎の断末魔が教室にこだましている時、姫川は転校先の廊下でメールを開いた。

「あ?神崎からメール・・・?」

添付ファイルまであって珍しいと思いながら送られてきたファイルを開いた。
その内容に思わず叫んだ。


「んだこりゃああああ!!!」


回りの目など気にせず、思いっきり叫んだ。それはもう、腹の底から。
愛しい恋人である神崎が写っているのはいいが、その周りが大変よろしくない。神崎に頬ずりする東条や。焼きそばパンを食べさせている相沢。さり気なく神崎にセクハラをする陣野など、たくさんの写メが送られてきた。(中には何故か零れたヨーグルッチが神崎にかかっている写メもあり、姫川はそれをしっかりと保存した)
あまりのことに姫川は肩を震わせる。

(何だこれは・・・!東条に相沢に陣野マジ許さん!コロスっつーかマジうらやまし、じゃなくて恨めしい!!俺のモンにベタベタ触ってんじゃねーよ!夏目に城山は何やってんだ・・・、てか神崎てめーは本当に常日頃から言ってっけど無防備すぎるんだよ!!!)

姫川は周りに当たり散らしたい気持ちを頑張って抑える。帰ったら覚えてろよ、と呟いて今やるべきことに集中することにした。















「てめ、陣野!本当に送るやつがあるか!!馬鹿!」
「・・・返信はやはりこないか」
「今頃悔しがってんだろーなぁ、あー面白ぇ」
「面白くねぇよ!相沢死ね!」
「落ち着け神崎、じゃれたいのは分かるけどよぉ」
「じゃれてんじゃねえよおおおおおおお!!!!」








石矢魔は、今日も平和です。
















ジャンプをチラリと読んで姫川の婚約者ではない、らしいことを確認して思いつきました。東条一派は神崎くん大好きだと俺得。
姫川、本当にちゃんと戻ってきてねぇえええ!!




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