最近、神崎が変だ。何故だか異様に俺を避けてくる。以前だったら、言い合いやらケンカやらが日常茶飯事だったのに、今では目を合わせることすらほとんどない。廊下ですれ違っても、俺に気付くと下を向いて端っこを歩く。俺もわざわざ声をかけるような用事はないので、会話することもないし・・・。
気付けば、神崎との接触はこの一ヵ月0に等しかった。



「夏目、城山。ヨーグルッチ買ってこい」

いつものように、愛飲しているヨーグルッチが切れ、側近の二人をパシる声が聞こえてきた。いったい一日にいくつ飲むつもりなのか、いつか腹下してもしらねぇぞ。つーか昼飯そんだけで足りるのか。
夏目と城山がいなくなり一人になると、机の上に足を乗せボーっと窓の外を眺めだした。神崎の癖に何か考え事だろうか、眉間にはいつもより皺が寄っている。こっちを見ていないなら、と後ろを向くとタイミングがいいのか悪いのか、神崎もこちらを向いた。

「あ、」

思わず声が漏れた。神崎は一瞬呆けて、でもすぐにばっと下を向いた。
おいおい、そんな露骨に避けなくてもいいだろうが。つーか無視してんじゃねぇぞコラ。
避けられていると気付いてから、俺はとにかく神崎にイラついていた。何で俺に否がないのに避けられないといけねーんだ。バ神崎のくせしてふざけんな。
俺は席を立って神崎の方へと近付く。すると神崎はびくりと肩を揺らし、慌てて自分も席を立とうとした。しかし、足を机の上に置いていたため思いっきり転んだ。それはもう大きな音を立てて。

「いって〜〜!!」
「・・・馬鹿だろ、やっぱ」

クラス中の視線を浴びつつ頭をさする神崎に近付く。

「はぁ、だいじょーぶか?」

一応心配してやると、俺の声に目を見開き、立ち上げって逃げようとした。それを神崎の腕を掴むことで制止する。

「な、何だよ!!」
「てめえが何だよ。露骨に避けやがって」
「べ、別に避けてねーし!」
「ふうん・・・?」

一ヵ月ぶりの神崎との会話だ。声音からして、怒っているというわけではないらしい。しかし頑なに目は合わせない。何なんだ本当に。
神崎を睨んでいると、夏目と城山が帰ってきた。

「あれ?二人共ケンカ?」
「姫川!神崎さんを離せっ」

あー、うるさいのが帰ってきた。ちっと舌打ちして腕を離す。その際のホッとした神崎の様子が気に入らない。俺は二人に聞こえないよう小さな声で話しかけた。

「おい」
「・・・・・・あ?」
「避けてねーんなら、いいよな」
「な、にが」

一人勝手に頷いてから今度はすこし離れた所にいる夏目達に大きな声ではなしかける。

「おい、夏目!城山!」
「何ー?」
「何だ、姫川」
「今日、こいつ俺と昼飯食うから」
「はああああ!?」

隣で神崎が叫ぶ。夏目はいいよーといつものように軽く笑っている。城山はぽかんと口を開けたまま固まった。
隣でうるさく怒鳴る神崎の腕を掴みずるずると引きずるようにして教室から出ていく。自分の昼飯と夏目達が今しがた買ってきた神崎のヨーグルッチを持つことも忘れない。





神崎は屋上の階段に着いてもまだ無駄な抵抗をしていた。力では少しだけ俺の方が有利だし、焦っているため上手く力がはいっていない。屋上に着くと、神崎を放り入れ、一応扉の鍵を掛けておく。

「な、何で俺がてめえと飯食わないといけねーんだよっ」
「別に仲良く昼飯が食いたかったわけじゃねー」
「なら、」
「さっきも言っただろう?」

構える神崎をじっと見て、じりじりと距離を詰める。その分神崎も後退するが、その辺はちゃんと考えてあり、神崎は少しして壁にぶつかった。

「あ・・・!」
「はは、ばーか」

俺は今度こそ神崎が逃げないように腕を右手で掴み、左手は壁につける。ガンつけるように顔を近付けると、何故か驚いて目を瞑った。
は?反応おかしくね?

「おい、神崎・・・?」
「っ、なんだ!!」
「いや、えーと・・・」

何だこの状況。神崎ってこんな奴だったか?もっとケンカっぱやくて目つき悪くて・・・・・・。
ぐるぐると考えていたら、ぐぅ〜と神崎から腹の音がなった。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

無言でお互いを見て、俺から口を開いた。

「あー、先、飯食うか」
「・・・おう」


俺は購買で買ったサンドイッチとサラダを出し、並べた。それを見て、神崎は驚いたような声を出す。

「へぇ、お前サラダとかも食べんの」

マンションの冷蔵庫何も入ってなかったくせに、と笑う。そういう神崎は、と覗くとその手にはヨーグルッチしか握られていなかった。

「お前マジでそんだけなのか」
「あ?文句あっかよ」
「いや・・・・・・呆れてるだけだ」

腹の音なってたくせにとため息をつく。神崎は眉間の皺を深くしうっせーと舌打ちした。俺は思わず、神崎の手首を掴んだ。

「!? な、何だよ・・・!?」
「いや、細いなーって」
「ば、別にいいだろ!離せって」
「暴れんなよ・・・・・・あっ」

俺の腕を振りほどこうと暴れたため、神崎はバランスを崩し後ろに倒れそうになった。急いで腰に腕を回し助けてやる。

「あっぶねーな、バ神崎」
「・・・・・・・・・っ!!!」

助けてやると、神崎は俯きびくりと体を震わせた。耳が赤いのは気のせいなのか何なのか。・・・・・・つーか、腕を回した腰もやけに細い。驚きを通り越して呆れる。

「神崎、お前ほっそいなぁ」
「な・・・っ」
「ちゃんと飯食わねぇからこんな腰細いんだよ」
「べ、別にいいだろーがっ!!!」

そう叫ぶと、神崎は思いっきり俺を突き飛ばした。咄嗟に地面に手をつき体を支える。
何なんだよ!いったい!

「あ、」
「てめ、神崎!いきなり何すんだ!」

睨みながら怒鳴ると、神崎は一瞬固まり、唇を噛んで俯く。その肩がふるふると震えていて、俺は目を見開いた。何事かと俺も固まっていると、神崎がぼそりと呟いた。

「わ、悪ぃ・・・」
「へ?・・・・・・・・・あ、いや」

らしくない態度に戸惑ってしまう。まあ、取り敢えず昼飯食おうぜと言いつつ肩を叩こうとしたら、神崎は大げさすぎるほどに後退した。

「か、神崎?」
「あ、お、俺・・・は、その」
「?」
「やっぱ他で食うわ!」
「はあ!?」

出口に向かおうとする神崎を腕を掴むことで制止する。らしくなさすぎる神崎の行動に戸惑うばかりだが、やはり確実に避けられていることだけは分かった。
消えていたイラつきが復活する。思わず神崎を掴む手にギリギリと力を入れる。


「だから、何で俺を避けてんだテメーは」
「さ、けてねぇし」
「避けてんだろ。何だ、ケンカ売ってんのか?あ゛?」
「ち、が・・・!」

すごんでみせると、神崎は慌てて俺を見る。その目が少し潤んでいて、俺は神崎の腕を掴む力を弱めた。眉も情けなく下がっていて、まるで今にも泣きそうな表情に目が離せなくなる。

「神崎・・・?」
「ケンカは、売ってねぇ」
「おう」
「・・・・・・」
「な、神崎。それは分かったから、いい加減教えろよ」


何で俺を避ける?


優しくそう訊けば、神崎は意を決したように俺を見て、それから一言、


「す、きなん、だ・・・」




そう言ったのだった―――
















恥ずかしがり屋な神崎くん萌え!





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