馬鹿だ馬鹿だと自分を責めながら泣くなんて、そんなのちっとも自分らしくないと、そんな日が来るなんて、と。
恋愛のせいで女々しくなっていくかのようで耐えられなかった。

それなのに、陣野への怒りより、自分へのそれの方が大きくてまた呆れた。
多分それは陣野を庇うというより、こうなることを分かっていたのに期待していた自分への失望だと思う。馬鹿、というのは散々言われてきたけれど、今回のことで痛感した。
俺は、本当にどうしようもないんだと。








あの日、待ち合わせ場所に知らない女がいた。自分の目を疑って、陣野に否定して欲しくて、でも返って来たのは肯定だった。何で話を合わせたのか今でも不思議だ。
いつもみたいに、夏目や城山にしているみたいに、怒ったってよかったのに。いい加減怒鳴ってやればよかったのに。愛想笑いなんて、きっと似合ってなかっただろう。

遅くなったから女を家まで送って行くと言い、俺を置き去りにした陣野の背中を見て、俺は何て思ったんだっけか。きっと、呆れるほどに無感情だった。



やっぱり、姫川は来てくれた。学校を休んだ俺を心配してのことらしい。陣野とどんな『デート』をしたのかも、既に知っていた。
一瞬、情けないと思ったが、こいつの前ではもうそんな姿は見せまくっているので、素直に泣けた。
『好きだ』、と言った姫川。初めてなんかじゃない。ちゃんと覚えている。屋上でのこと。俺はそれにきちんと返事をしていなかった。陣野への気持ちを断ち切れなかった。今でも。

それでもこいつは来てくれる。俺のために怒ってくれる。
陣野のことは言えない。俺だって、姫川に酷いことしてるんだと薄々そう、思ってた。
じゃあ、俺の本心は?陣野のことはまだ好きなのか?姫川のことは?
・・・・・・考えても、混乱した頭じゃ答えは出なくて、俺はただ姫川の胸で泣いた。








気付けば、俺は姫川にもたれて眠っていた。・・・・・・アホか。何やってんだ俺。
悪い、と言って少し距離を取った。姫川はそんな俺を見て軽く笑った。そのおかげか、照れなんてものは吹っ飛んで、俺も笑えた。
姫川はいつもそうだ。俺に決して気持ちを強要したり、押し付けてきたりしない。俺が少しでも戸惑えば、距離を取ってくれる。今までのこいつからは考えられないくらい、尽くされてるんだと思う。以前の関係からは信じられないくらいだ。
そのためか、俺はらしくもなく姫川に甘えている。・・・・・・俺が他人に甘えるとか気持ち悪いと思うが、それが現実だ。

「喉渇かないか?」

そう訊かれて、自分の声が掠れているのに気付いた。俺は姫川と自分の分の飲み物を家の奴に頼んで、またソファーに座った。

「あー、いつの間にか寝てたみたいだわ」
「疲れてたんだろ」
「・・・・・・あー、まあ」
「明日は学校来んのか?」
「そうだな。・・・・・・城山とかがうっせーし」
「はは、愛されてるんだって」

まただ、気を遣われている。
何度目かの告白?の返事を訊かれない。訊かれても、応えられるわけじゃないんだが。
・・・・・・正直、俺はまだどっかで陣野を信じている。きっと裏切られると分かっていながら。未だに、あの野郎が好きなんだと、思う。
それなのに姫川を拒絶しないのは・・・・・・俺が卑怯だからだ。




――それでも、俺は一つ決心した。










「なあ、姫川」
「んー?」
「俺、決めたわ」
「・・・・・・何をだ?」

緊張からか、喉が渇いて水を飲んだ。
手が震える。でも、俺は口に出さないといけない。それが、俺の覚悟だ。


「俺は、陣野と別れる」


あっちからしたら、付き合ってるってわけじゃないのかもしれないから『別れる』ってのは正確じゃねーかもしんないけど。もう決めた。
信じても・・・・・・今でも信じてるが、それは裏切りを前提としている。これ以上陣野といても、同じことを繰り返すだけだ。
それならもう、断ち切った方がいいに決まっている。その方が、俺らしい。




「・・・・・・いいのか?」

姫川はそれだけ訊いた。

「ああ、いいんだ。もう決めた」
「そうか」
「明日、陣野にも言う」

拳を固めると、その上から姫川が手を置いた。少し驚いて顔を向けると、姫川は真剣な顔をしていた。

「・・・・・・ひ、姫川?」
「後悔しないんだな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺は、お前に・・・・・・」
「しねぇよ」
「・・・・・・神崎」
「巻き込んで悪いな、姫川」
「・・・・・・・・・・・・」
「もう少しだけ、付き合ってやってくれ」

そう言って笑うと、姫川は悲しそうに笑った。別に、姫川が悲しむ必要なんてないのにな。
こいつも、本当に馬鹿だなぁ。

















陣野は、いつも通り図書館にいた。
俺を一瞥すると、何も言わず本に目線を戻す。相変わらず痛む胸が忌々しい。

「陣野」
「・・・・・・何だ」
「お前に、話がある」
「・・・・・・話、か」

興味が出たのか、陣野はやっと本を閉じた。いつもの無感情な視線が突き刺さるようで、少し手に汗をかいた。

「で、話とは何だ?」

口にはしなくとも、早くしろとという無言の訴えを感じる。俺もこんな居づらい空気からは早く逃げたいから、口を開いた。

「ずっと、考えてたんだ、けどな・・・・・・」
「ああ」
「お前と、別れたい、と思う」
「・・・・・・」
「お前からしたら、付き合ってた自覚はないのかもしれないけど・・・・・・。俺はもう、限界みたいだ」
「限界、か」
「だから、その、いや、お前は断る理由ないと思うんだが。一応、言っとかないといけないかと思ってよ」
「・・・・・・そうか」

そう言うと、陣野は一呼吸置いた。
何を言われるか予想できないせいか、変に緊張する。てか、今更だが図書館に人居なくて助かったな。
ああ、これで本当に陣野と関わりがなくなるんだな。思えば、付き合ってるっぽいこと全然してこなかった。俺ばっかり舞い上がって・・・・・・。
それでも、本を読んでる陣野の横顔を眺めているのは、それなりに好きだった。

本気、だったんだな、俺。





何時間も待っていたように感じた。
それくらいの緊張の中で待った、陣野の言葉は――





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