「神崎先輩、ですよね?」
神崎が呼ばれて振り向くと、三人の女子がいた。石矢魔の生徒じゃない。聖石矢魔の生徒だ。
「ちょっと、お時間いいですか?」
「おっせーなぁ」
姫川はケータイを弄りながらイライラと貧乏揺すりをする。
校門で恋人である神崎を待っているのだが、一向にやって来ない。
「ケンカか?」
そう思った時、神崎から一通のメール。何だよと思いながら開くと、
『夏目達と帰る』
そう書かれていた。
「あ゛ぁあ?」
青筋を立て、思わずケータイに向かってがなる。いったい何なんだよあのクソ野郎、と悪態を吐いていると聖石矢魔の女生徒に声をかけられた。
「姫川さん?」
「あ?」
「あの、私達今から帰るんですけどぉ、良かったら一緒に帰りませんか?」
バレーの時からファンで、と群がってくる。姫川は内心舌打ちをした。以前なら笑って誘いを受けていただろうが、今は神崎がいる。ムカついているとはいえ、浮気をする気にはならなかった。
「悪い。人待ってんだ」
そう笑うと、女生徒達は意外なことを口にした。
「え〜?でも、お友達は来ませんよ?」
「あ?」
どういう意味だ、と聞こうとした時、夏目と城山が歩いてくるのが見えた。女生徒達を押し退け、二人に近寄る。小さな悲鳴が聞こえたが気にしない。
「おい!てめえら!!」
「あれ、姫ちゃん」
「神崎は!?」
「・・・え?一緒じゃないの?」
夏目がそう首を傾げると、姫川は勢いよく女生徒達の方を振り向き、詰め寄った。
その表情は、静かな怒りを露にしていた。
「どういうことだ・・・?」
バンッ、とでかい音がするくらいに荒々しく教室のドアを開ける。見渡すと、神崎が机にふせっていた。
「神崎」
声をかけるが、肩が揺れるだけで顔を上げない。姫川は舌打ちして近付く。すん、と鼻をすする音が聞こえて焦った。
少しだけあった神崎への憤りが消える。迷って、優しく声をかけた。
「泣くくらいなら、こんなことすんなよ」
そう言うと、神崎は震える声で答えた。
「しかた、ねーだろ。友達ですか、ってきかれ、たら・・・」
神崎の頭をくしゃりと撫でる。
事の経緯はこうだ。
「私達、姫川さんのファンなんですっ」
「ファン?」
廊下で呼び止められた神崎は、姫川のファンなる女生徒達から、姫川と一緒に帰りたい。だがいつも神崎がいてチャンスがない。ということを聞かされていた。
「それで、」
「あ?」
「か、神崎先輩は姫川さんの友達なんですよね!?」
「・・・あ、あぁ」
「なら、協力してくれませんか?」
簡単に言えば、一緒に帰るのを女生徒達に譲るというものだ。
神崎は胸に痛みを感じつつも、頷くしかなかった。
姫川は経緯を聞いて、神崎に少しだけ不満を感じていた。しかし、神崎が姫川を思ってそうしたことをきちんと分かっているので、何も言わず、気付かれないようにため息をつく。
神崎の手に自分の手を重ねる。すると神崎は指を絡めてきて、どうしようもない愛しさを感じた。
「ひ、めかわ」
「ん?」
名前を呼ばれたので、短く返事をしながら、髪に鼻を埋めつむじにキスをする。
「好きだ」
「俺もだ。神崎が好きだ」
間を置かず応える。神崎がやっと顔を上げたので、姫川は笑って口付けた。
「なぁ、いっそ聖石矢魔の奴らにも俺達のことばらしちゃう?」
ばーか、と神崎は笑った。