「陣野とデート?」




帰り道、ゲーセンにいた夏目と城山から聞いた話は、正直信じられない物だった。

「いや、デートじゃないよ。何言ってるの姫ちゃん」
「神崎さんはただ、陣野と予定がかぶっただけだ」

俺の発言に、何を言っているんだと夏目が片眉を上げた。珍しい表情だ。そう言えば、こいつらはあの二人が付き合ってるのは知らないんだったな。

「あー、悪い。ちょっとした冗談だよ。・・・・・・で?神崎と陣野が、何で二人仲良く買い物に行くんだよ」

悟られない様、おどけてみせる。城山は鼻息荒くしたが、夏目は涼しい顔で教えてくれた。

「んーと、神崎くんの話では陣野には小さい従兄弟がいるんだけどね。その従兄弟の誕生日が近くて、そんで二葉ちゃんがいる神崎くんに相談したらしいよ?」
「・・・・・・東条だってガキのことには詳しいだろ」
「バイトだってさ。本当に、バイト好きだよねぇ」

夏目は肩を竦めた。・・・・・・話を作ったのは陣野だろうな。よく考えたもんだ。表情に出さない様、奥歯を噛みしめる。

「・・・・・・そうか。ま、いいんじゃね?」
「まーねー。・・・・・・でも、それなら俺達も連れてってくれたっていいのになぁ、ってさ」
「・・・俺が知るかよ」

そう呟いて、俺はゲーセンを出た。夏目と城山は顔を見合わせたが、俺を止めることはなかった。








マンションまでの帰り道、なるべく無心で歩いた。それでも汚い感情は心の隙間に入り込んでくる。
陣野と神崎が二人で出かける。今までそんな恋人らしい素振り見せなかったのにだ。どうせあいつは、また神崎を追い詰めるだけに決まっているのに。喜ばせて、もちあげて、それで底の底まで落とすに決まっているのに。
今更、神崎に近付こうなんて、そんな・・・・・・虫のいい話が――



「――はっ」

自分で自分を嘲笑う。分かってる、これは嫉妬だ。ただ、あの男が羨ましいだけの、醜い感情だ。
携帯を握りしめて、ソファーに放った。当然、神崎から連絡なんて来ていない。できたら、神崎から話して欲しかったなんて、それこそ虫がよすぎる。俺はただ、一方的に神崎に言い寄っていただけだ。あいつはまだ、俺を選んではいないんだから。


「バカらしい、話だよなぁ」

未だ見えない、俺と神崎との未来。それを望むより、まずは今の神崎の幸せを願ってやらねーと。陣野との・・・デートが上手くいくように。何も悪いことが起きない様に、ただそれだけ。

「・・・・・・あーあ、片思いは辛いよなぁ」

呟いて、大きくため息。深呼吸をして、気分を切り替えた。
今は神崎の拠り所で充分。それだって、嬉し過ぎるくらいだ。焦らずじっくりと、近付いていけばいい。















陣野と神崎がデートをすると聞いた翌日、廊下で陣野を見かけた。声をかけようか迷っていたら、あっちの方から声をかけられ、驚いた。まさか、陣野から俺に話があるなんて。
心の中でいつも通りにと言い聞かせながら、廊下の隅にへと移動した。

「んだよ、てめえに声かけられるなんて珍しいこともあるもんだな?」
「いや、実は今、面白いことになっていてな」
「なんだ?てめえと神崎が出かけるって話なら、腰巾着共から聞いたぜ?」

そう言うと、陣野は肩を竦めた。

「さすがだな」
「昨日、ゲーセンで会っただけだよ。別にこんな情報欲しくねーっての」
「確かに、役立つ情報ではないな」

そう頷く陣野。俺は慎重に、話を聞き出すことにした。まずは、何でそうなったのか。

「でも、よくあいつと出かけるなんて気になったな?遊びだっつってたのに」
「あぁ・・・、たまたまな。たまにはかまわないと、面倒なことになっても困る」
「・・・・・・面倒なこと?」
「最近、夏目が俺のことに勘付いてる・・・・・・気がしてな」
「夏目が?」

昨日、夏目に会った時の様子を思い出す。陣野が言う様に、怪しんだ様子はなかったが・・・・・・。

「昨日会ったけど、そんな様子はなかったぞ」

そう教えてやると、陣野は微かに目を見開いた。

「そうか。・・・・・・まぁ、俺も夏目には滅多に会わないからな。・・・勘違いなら、それにこしたことはない」
「だろーな」

肩を竦めて見せると、陣野は微笑した。ピクリ、と無意識に眉が反応する。

「勘のいい男にしては、俺のことには気付かず、か」
「・・・・・・多分、ほとんど接点はないと思ってるんだろうよ」
「ふん・・・・・・」

陣野の含み笑いに、嫌な汗が流れる。いや、別に何か確証があるわけではない。ただ、この男のやることは、神崎に対して良い様に働くことは・・・とても少ない。




「てか、こんな廊下で話してて大丈夫なのか?」

嫌な気持ちを振り払うように訊くと、陣野はいつもの無表情で頷いた。

「あぁ、夏目なら、いつもの三人組で一階の自販機にいた」
「確認済みか。・・・・・・ま、せいぜいデートを楽しめよ」

本当はもう少し訊きたいことがあったが、あんまり首を突っ込んで怪しまれるのも困る。陣野の肩を軽く叩いて、俺は教室へ向かった。

去り際の陣野の言葉に、どこか引っかかりながら――







その日の授業を終え(と言っても、ほとんど聞いてなかったが)、家に帰ると携帯が鳴った。誰体と確認すれば神崎からで、思わず固まる。
何だ?このタイミングでもメールとか、おいおい、まさか陣野とのデートのことじゃないよな。俺、これに返信、した方がいいのか・・・?いや、まずは内容を見ねぇと。

「・・・・・・っ」

ごくりと生唾の飲み込みメールを開く。いつも通り件名はなく、内容も短い言葉でざっくりとした物だった。

『この間はいろいろ、そっち任せにして悪かった。これからは、俺も自分から行動してみるから』

メールを見て、俺は首を傾げた。
どういうことだ?自分からも行動する・・・?それは、陣野にデートに誘われたことで少し自信が出たということなのか?それとも・・・・・・。
そこまで考えて、まずは返信することにした。メールを打って、また考える。そして、一つの答えが浮かんだ。

今回のデート、神崎から言い出したことじゃないか、ということだ。


陣野も、自分から誘ったとはいってなかった。神崎から誘ったとしたら、今、このタイミングでこのメールが来るのも頷ける。

「そうか、神崎から・・・・・・」

神崎が勇気を振り絞って誘った。そう思うと、上手くいって欲しいと思うのはなんでだろうな。陣野のくそ野郎に、神崎を持ってかれたくはねーけど、今回だけは、何もないまま終わって欲しい。



昨日とは打って変わって穏やかな気持ちで、俺は携帯を閉じた。











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