いつものように神崎とくだらないことで言い合いになり、放課後に決着をつけることになった。まったく、何でこう暑いのに汗かくことしなきゃならないんだか。これも全部神崎のせいだ。あいつは短気すぎるだろ。俺が言うのもなんだが、わがままだしな。夏目と城山はあいつを甘やかしすぎている、絶対に。

そんなことを考えつつ、喧嘩をするために体育館裏に向かった。場所を指定したのは神崎。ベタすぎるだろ、と内心鼻で笑ったのは秘密だ。確か、教室で夏目達に先に帰るよう行っていたので、もう着いているだろう。どうせいつものしかめっ面でヨーグルッチを飲んでいるに決まっている。驚かせてからかってやろうと、そうっと音を立てないようにして近付く。壁から覗くと、神崎がいた。ヨーグルッチを持っているところまではいつも通りだったが、少し、俺の想像とは違っていた。
神崎は、もう飲み終わったヨーグルッチのパックをストローから息を吹き込んでパコパコと膨らまして遊んでいた。階段に座っていて、はみ出した足をこれまたガキのようにぷらぷらさせており、年齢より幼くみせた。と言うか、喧嘩相手を待つ様子ではない。
見たことのない、警戒心の欠片もない神崎の姿を新鮮に感じた。最近では以前のように神崎や他の石矢魔の不良とギスギスすることもなくなり、喧嘩の理由も今回のようなくだらない言い合いからが多くなっていた。恋人同士の倦怠期ではないが、少しだけ刺激も変わり映えもない毎日だと感じていた。
そんな時に見た警戒心のない、子供のような神崎の姿。新鮮だし、面白い。そう思った瞬間、そうだ、こいつで遊ぼう。そう考えた。





「ったく、姫川のヤローおっせーなぁ」
「悪い、待たせたな」
「・・・!」

そう言っていきなり現れた俺にびっくりした神崎は、思わずヨーグルッチを落としそうになり、慌ててキャッチする。たかが飲み物一個にそこまで必死にならなくても、と笑った。まったく、今日の神崎は面白い。

「お、おまっ・・・いきなり出てくんなよな!ヨーグルッチ落とすところだったじゃねーかっ」
「別に空っぽなんだしいいだろ?」
「ばーか、ゴミは片付けなきゃいけねーんだぜ?」

胸を張ってフンと鼻で笑う神崎。えー、お前それでも不良なの?面白すぎんだろ。ちょっとアホかわいいんですけど。

「そうかよ」
「そうだよ。ってことで、・・・さっさと決着つけっぞ」

そう言うと、さっきまでの子供っぽさが消え去りいつもの神崎に戻る。一瞬で緊迫した雰囲気を作れることに感心しつつも、俺は俺のために作戦を実行する。
黙って神崎との間を詰めると、左手を壁に付け動きを塞ぐ。

「? おい・・・何だよ」
「神崎、俺は喧嘩するために来たんじゃねーんだ」
「・・・・・・はあ?」

神崎は首を傾げつつも、握っていた拳を解いた。本当に単純だな。騙されやすいのは、今の俺としては助かるが。

「神崎、」
「だから何だよ・・・・・・」

困惑した様子に内心ほくそ笑みつつ、右手でサングラスを外しポケットに仕舞う。じっと神崎の眼を見詰め、いつもより柔らかい口調で、言った。


「好きなんだ、お前が」



そう言った瞬間、神崎はこれでもか、というくらい目を見開き口をポカンと開けたまま呆けた。言葉もないのか、そのまま何のリアクションも起こさない。そのバカ面を笑いたいのを我慢して困ったような表情を作る。

「困るよな、いきなり男にこんなこと言われても」
「・・・・・・え?あ、・・・・・・い、や・・・・・・え?」

やっとのことで覚醒し、なんとか言葉を発しようとしているが、目を泳がせるばかりで焦ることしかできないようだ。
それはそうだろう。俺だって敵対している、しかも野郎に告白なんぞされた日は流石に焦る。というか現実逃避したくなる。まぁ、焦るだけでなく気持ち悪いと一蹴するだろうがな。しかし、神崎はそれができないらしい。まぁ、聖石矢魔に来る以前ならできただろう。共闘など、バレーなどで何だかんだ言って仲良くなってしまった俺相手に、どう言っていいか分からない。そういうことだ。
同じクラスになって神崎とよく接するようになり分かったこと。それは、意外に人望があり、意外にお人好しであり、意外によく笑うということだ。そんな神崎だから、俺の告白を拒絶しないであろうことは予想できた。これは大いに利用させてもらうしかない。



「あ、あのな・・・ひめか、わ」
「・・・・・・何だ?」
「俺は、男で・・・・・・お前も、お・・・とこなわけで・・・」
「ああ、わかってる。わかってるんだが、それでも好きなんだ」
「え、ちょ・・・」
「どうしようもないくらいに、お前のことが頭から離れない」
「・・・・・・っ!」

とびきり甘い声でそう呟けば、眉を下げ、真っ赤な情けない顔をする。初めて見る隙だらけな神崎。思わず右手で顎を優しく掴みくいっと上を向かせる。

「・・・・・・ひっ」

すると、目をぎゅっと瞑り俺から逃げようと後ろにさがる。おいおい、処女かよ。驚きつつも逃がさないよう壁についていた左手を神崎の腰に回す。見た目以上に細い腰に、何故か息を呑んだ。

「ひ、めか・・・」
「なぁ、神崎。お前は俺が嫌いか?」
「え!?・・・い、いや・・・・・・嫌い、ではっ」
「本当かっ・・・期待、してもいい?」
「えっ、いや、ちが、ちがくて!そういうんじゃ・・・!」
「確かに、男同士だが、お前を想う気持ちなら誰にも負けねぇ。夏目にも城山にも」
「姫川・・・!?」
「絶対にお前を幸せにする。女も、全部切る」
「ひ、めか・・・」
「だから、神崎」

更に顔を近付ける。耳元まで近付いて少し低い声でな?と呟く。神崎は首元まで真っ赤にしてびくりと肩を震わせた。もう、混乱して何が何だか分からないんだろう。言われるがまま、神崎はこくりと首を縦に振った。

「神崎・・・・・・ありがとう」

抱きしめると、ハッと気付いたように慌て始める。

「!? いやいやいや!違う、違うぞ姫川!?」
「神崎?照れんなよ」
「だ〜か〜ら〜っ!!!」

俺は、自棄になって暴れようとする神崎の頬に、ちゅっと軽いキスをした。

「!!?」
「・・・・・・・・・」

神崎の動きがピタリと止まった。が、俺の思考も同時に止まった。しようと思ってしたわけではなかった。体が勝手に動いていた。
あっれ?何で神崎なんかにキスしてんだ俺。いや、頬にだし神崎の抵抗もなくなったしいいけどよ。





神崎はその後真っ赤になったまま呆けて何も言わなくなった。それを良いことにさっそく帰り一緒に帰る約束を取り付けた。











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