高校生で、しかもあまり遊園地や動物園などデートの定番の場所に行きたがらない神崎とのデートは、姫川のマンションに泊まるお家デートが主になっていた。姫川にしても、自分の家に神崎が来てくれるのは嬉しいし、神崎が泊まることによってそういうこともできるのだから文句はない。
文句はないのだが、姫川には一つ気になっていることがあった。











「おい・・・、夏目、城山」

休み時間、神崎にヨーグルッチを買うために自販機にやって来た二人を待ち伏せし、姫川は声をかける。いきなりの登場に驚きつつも、夏目はいつもの笑顔で返事を返した。

「やあ、姫ちゃん。どうしたの?」
「お前も飲み物を買いに来たのか?」

二人の質問には答えず、姫川は神妙な面持ちで口を開いた。

「・・・・・・お前ら、神崎の家に行ったことはあるか」
「え?」
「・・・は?」

当然、二人は何を言い出すんだと呆ける。そんな二人にイラつきつつ、姫川はもう一度訊ねた。

「行ったことあんのか?ないのか?」
「・・・あ、あるけど」
「・・・・・・泊まったことは?」
「あるが。・・・・・・それがどうかしたのか?」
「・・・・・・いや、別に」

どう見ても何かあるだろう表情でそう言うと、姫川は二人に背を向けて廊下を歩いて行った。その背中を見つめ、二人は目を合わせ肩を竦めた。






姫川が気になっていること、それは神崎が家に招いてくれないことだった。堅気ではないから、呼びにくいというのは分かる。が、側近二人は呼んで(しかも家に泊めて)、自分を呼ばない理由はなんだろうか。姫川の家柄を気にしているのだろうか。見られたくない物があるのだろうか。まさか、まだ家に呼ぶほどの仲ではないと思われているのだろうか。
姫川の頭の中でいくつもの考えが浮かんでは消える。神崎相手には何故かヘタレになってしまうため今までは訊けなかったが、日に日に神崎の家に行きたいと言う欲求は大きくなっていく。丁度、次のデートの約束はしてなかったので、提案してみよう、と姫川はこっそり決意した。


「なぁ、神崎・・・」
「あー?」

昼休み、二人屋上でご飯を食べた後、姫川が口を開いた。神崎はヨーグルッチを飲みながら空をボーっと眺めている。

「今度の休みなんだけどな」
「おう」
「・・・お前ん家行ってもいいか?」

そう訊いてから、無意識に生唾を飲み込んだ。何て事の無い質問のはずなのに、何故もこう緊張するのか。神崎は、少し不思議そうに姫川の顔を見て、ヨーグルッチのストローから口を話した。

「いいけど」
「・・・・・・へ?」
「泊まってくのか?・・・あー、離れにした方がいいかな」

軽く承諾し、神崎はぶつぶつと一人考え事を始めた。姫川は、意外にもすんなり受け入れられたことに驚く。

「・・・い、いいのか?」
「は?何が」
「いや、俺が行っても」
「・・・?何かあんのか?」
「・・・神崎がいいなら、いいんだけど」
「・・・・・・?」

歯切れの悪い姫川に、神崎は眉間の皺を寄せる。

「はっきりしねぇ奴だな。何が問題なのか言えや、コラ」
「いや、俺は問題ねーんだって」
「あぁ?」
「ただ、お前が俺に家に来て欲しくねぇのかと思ってだな・・・」
「はあ?」

訳が分からないと詰め寄る神崎に、姫川は諦めたように話始めた。

「お前が、全然家に呼ばねーからさ」
「・・・おう」
「俺が行ったらいけない理由でもあるのかと思ったんだよ」
「・・・・・・」
「てか、俺が行きたかっただけなんだけど・・・。言い出しにくくて、よぉ」
「・・・・・・・・・・・・」

そう言って、恥ずかしそうに姫川はそっぽを向いた。神崎は考えるような素振りをして、口を開いた。

「いや、特に考えてなかったわ」
「あ、そう。・・・なら、いいんだけどよ」
「てか、お前ん家の方が都合いいかと思ってて」
「都合?」
「俺ん家だと、家の奴らがうっさいからよ。ゆっくりできねーかもって考えてた」
「・・・・・・ふうん」

その言葉に、姫川は首の裏を擦りながら俯く。神崎は神崎で、自室にしようか離れにしようか考えているようだ。

(ゆっくりできねぇかも、って・・・・・・それってさー)

つまり、だ。神崎は姫川と二人でいる時は周りに邪魔されたくないと思ってたってことだ。それは、姫川にとってとても嬉しいことだった。自分との時間をそれ程大事に思っていてくれたなんて知らなかった。

(あー、くそ。マジ勘弁しろよな)

こういった、神崎の不意打ちが愛おしくて仕方がない。顔に出ないように努めながら、神崎の言葉に悶える姫川。

「なぁ、俺の部屋と離れどっちの方がいい?」

そんな姫川の様子に気付かず、神崎は訊ねる。姫川も、まるで何もありませんでしたという表情で返事を返した。

「あー、神崎の部屋がいい」
「・・・なら、布団出さねーとな」
「ベッドねーの?」
「あるけど。てめえん家程でかくねーんだよ」
「俺はそれでいいけど」
「狭いから嫌だ」
「・・・・・・」

つれないことを言うと思ったが、神崎の部屋に泊まれることを考えればとるに足らないと我慢した。

「次の休みでいいんだよな?」
「あ?・・・おう、予定あるか」
「ねぇ。家の奴らにも言っとく」
「おう」
「あ、飯とかどうする?」
「・・・出前取るか?」
「・・・・・・多分、家の奴らが無駄な気合だして作るとか言い出すから、外で食わね?」
「いいぜ」

こうして、とても(姫川的に)満足できる内容で、次のデートの約束を取り付けたのだった。

















「お邪魔します」

約束の日、姫川は晴れ晴れとしたた気持ちで神崎家の玄関に立った。何がそんなに嬉しいんだと、神崎は訝しげに姫川を見る。まぁ、いつまでも玄関にいるわけにも行かないので部屋に通すことにした。

「ま、上がれよ」
「おう」

廊下を歩きながら、姫川は周りを見渡した。さすがヤクザというべきなのか、広い。所々にそれなりの値段がするだろう物もあり、やはり神崎もお坊ちゃんなのだと再確認した。

「あ、そうだ」

突然、後ろで発せられた声に神崎が振り向く。

「どうした」
「親父さんにご挨拶を・・・」
「しなくていいわ!!」

かあっと頬を赤くを染めながら、姫川を殴る神崎。そしてキョロキョロと周りを見て、誰にも聞かれなかったことに安堵する。

「殴ることねーのに」
「迂闊な発言したら、今度は蹴るからな」
「分かった分かった。・・・・・・それにしても、」

姫川も、周りを見るが特に人が見当たらない。神崎が学校で言っていたので、少しだけ覚悟してきたのだが、少し拍子抜けしてしまった。神崎も、そんな姫川の様子に気付いたらしい。

「きつく言っといたからな。そうそう、家の奴らがうるさくすることはねーぜ」
「・・・ふうん」

その言葉に、姫川の口角が上がる。

「俺との時間を邪魔されたくねーから?」


今度は、無言で神崎の回し蹴りが決まった。
それでもその耳が赤かったので、姫川の機嫌を更によくしただけだった。












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