土曜日の夜、家で一人テレビを見ていたらケータイが鳴って、ディスプレイを見たら意外過ぎる名前が表示されていた。

『神崎一』

おいおい。何だこれ。どういう冗談なんだよ。え、これ出るの?出た方がいいの?
少し迷って、俺は・・・。


「・・・・・・もしもし」

少しの間。


「もしもし?」
「な〜〜つめ〜〜〜〜」
「は?」
「出るのがおっせーんだよコルァ!」
「へ??」

何だこれ。
な〜〜つめ〜〜〜〜、って・・・・・・夏目、か?つーか、神崎酔ってね?
えー・・・つまり、酔って間違えて俺に掛けてきたってことか。・・・・・・アホくさ。


「なつめぇ〜」
「おい、神崎」
「うあ?・・・・・・お前誰だ?」
「姫川だ。何間違えて掛けてきてんだバ神崎」
「はあ?意味わからん」
「いや、意味わからんのはこっちだから」
「ばーか、フランスパンー」
「おい・・・」

電話の向こうでケラケラと笑っている。いつもの神崎と違い過ぎて、俺は少しドギマギしてしまった。何で俺がこんな気分にならないといけないんだ。

「つーか、どんだけ飲んだんだよ。この酔っ払い。どうせ安い酒飲んでんだろ」
「うっせーよくされ金持ちがぁ。てか酔ってねーし!」
「そこは否定すんなよ」
「お前こそ、名前だけかっこいい安い酒飲んでんだろ実はーっ」
「はぁ?俺ん家にあんのは有名所だけだっつーの」
「なら見せてみろやぁ」

売り言葉に買い言葉。酔っ払い相手にムキになるなという話だが。
気付いたら、神崎が部屋にいた。









「姫川ぁ、さみ〜」
「そんな薄着で外にいるからだばーか」

春になったとはいえ、夜はまだまだ肌寒い季節だ。それなのに神崎は半袖と短パンという実に軽装でコンビニの前に座っていた。
仕方なく、まだ仕舞っていなかった毛布を投げてやる。それに包まりながら、もそもそと近づいてくる神崎に、思わず吹き出した。

「ミノムシかお前は」
「違います〜神崎です〜」
「・・・・・・酔ってんなぁ」

どんだけ飲んだんだ、と聞いてみれば、なんとチューハイ2本でこの様だった。ヤクザの息子のくせに、かなり酒に弱いらしい。まぁ、ヤクザ関係ないかもしれないが。

「姫川!いいからはやく酒出せよー!高い酒!」
「まだ飲むの、ってか飲めんの?お前」

すでに出来上がってるんですけど。しぶると、神崎は俺の袖を引っ張り、酒酒とうるさく騒いだ。てか、袖掴むとか・・・。お前そんなキャラだっけ!?
仕方なく、家にある一番安い酒を持ってきてやる。すると神崎は目をキラキラと輝かせ、子供のようにはしゃいだ。

「おー!何だこれ読めねーし!てか開けていいか?なぁなぁっ」
「あ、ああ・・・」

いつもと違い過ぎるんですけど。そりゃあ、泣き上戸とかになられるよりはいいけどよ。警戒心丸出しだった野郎がここまで変わるとは・・・。恐ろしき酒。



「おー!美味しいなコレ!」
「そうか」
「ほらー!姫川も飲めよぉ」
「わかったわかった」

絡んでくる酔っ払いにてきとーに頷く。グラスに注ぎ飲んでいると、突然神崎がタックルしてきた。

「うおっ!ちょ、酒が零れんだろーが!」
「うっせぇ、ばあか」
「はあ?」
「さみぃの、おれは〜」
「え、ちょ・・・」

神崎はぎゅうぎゅうと俺の腰に抱きつき、額をぐりぐりと押し付けてくる。おいおいおいおい。何なのコレ誰コレ。
俺が焦って引き離そうとすると、神崎は眉を八の字にしてさらに強く抱きついてきた。

「フランスパン〜何だよ、バカぁ」
「いやいやいや、落ち着け神崎」

頭を掴んで話そうとすると、上目使いで訴えてくる。しかも酒のせいで目は潤んでいて目元や頬がほんのり赤く、何故だかドキリとしてしまった。思わず抵抗を止めると、神崎は気を良くしたのかあぐらを掻いていた俺の太ももに頭を預けた。

「ちょ!?か、んざきっ?」

まさか寝るのか!?俺の太ももの上で!?

「おい、こんな所で寝るつもりか!?」
「寝ねーよ。ちょっと疲れただけだ」

・・・・・・どうやら、神崎は酔うと甘えたになるらしい。つーか、男相手に俺は何考えてんだ。しかも神崎だし。こんなかわいさが微塵もないヤクザの息子に一瞬でもトキメクとか。
項垂れている俺とは逆に神崎は上機嫌で酒をちびちび飲んでいた。横になりながら飲むなと注意すれば、しぶしぶといった感じで座りなおした。

「なぁ、ひめかわ〜」
「んー?」
「酒ってまだいっぱいあんの?」
「まあな」
「ふうん・・・」
「何、飲みてえの?」

黙ってこくりと頷く神崎。その様子がなんだかかわいくて、俺は笑ってしまう。

「でも、今日はもう飲むなよな」
「えー・・・」
「また今度飲めばいいだろ」
「えー・・・・・・え?」
「あ・・・」

お互い無言で見つめ合う。気まずくなって、俺は頭を掻きながら目を逸らした。

「まぁ、たまになら・・・飲ませてやる、ってことだ」
「・・・・・・・・・おう」




こうして、俺と神崎は酒飲み仲間となったのだった。













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