それは、驚くほどに上手くいった。この日のため計画し実行した姫川自身、驚くほどだった。



「首、苦しくないか?」

目を覚ました神崎は、使った薬のせいか呆けている。姫川は、状況が分かってないだろう神崎に声をかけた。

「ひ、めかわ・・・?あ?・・・・・・ここ、って」
「場所は変わってねーよ、俺の部屋だ。まぁ、寝室だけどな」
「・・・なん、で」

やはり状況が分かっていない神崎に、姫川は説明してやる。

「あー、今日の放課後俺に呼び出されて、ここに来たのは覚えてるか?」
「あぁ。少し話した・・・のは覚えてる」
「そうか。そんで、てめえに出したジュースあったろ」
「・・・おう」
「それに睡眠薬混ぜてあったんだよ。で、てめえが寝てる間に繋いどいた、ってわけ」
「は?睡眠薬?・・・繋ぐ、って」

ますます混乱したらしい神崎に、姫川は自分の首を指でトントンと指して見せた。

「首、気付いてねーの?」

言われて、神崎は自分の首を見た。そこには皮でできた首輪がされており、太い金属の鎖でベッドの柵に繋がれていた。

「何だ、これ・・・」

首輪を見た神崎は驚いて目を見開く。だが、この明らか異常な状態にあるにもかかわらず神崎は暴れることなく姫川を見ている。まだ睡眠薬が抜けきっていないのか、とも思ったが姫川も少し不思議に思ったようだ。

「・・・まだ眠いのか?」
「いや・・・・・・」
「・・・・・・」

普通どれだけ冷静な人間でも起きて鎖で繋がれていたら暴れるだろう。しかも、神崎の性格から罵詈雑言を浴びせられると思ってたくらいだ。それなのに、この落ち着き具合はどうだろう。まるで別人のようだ。

(そりゃ、俺は大人しくしてくれてる方がいいけどよ・・・)

不思議な沈黙の後、神崎がやっと口を開いた。





「・・・姫川ってよ」
「あ?・・・あぁ」
「何で、こんなことしてんだ?」

それは最もな質問だったが、神崎には不似合いな質問に思えた。そんな冷静に訊くようなことだろうか。もしかして神崎は今の状況を理解してないんじゃないか。そう考えもしたが、姫川はとりあえず説明することにした。

「・・・今日、卒業式だったろ」

そう、今日は姫川達三年生の卒業式があったのだ。神崎は卒業式の後姫川に呼び出され、ついて行くまま部屋に上がり今に至る。

「俺は、卒業式の一ヶ月前、お前を監禁することにした。それまでは気付かなかったんだ。卒業するってことの意味を」
「監禁・・・・・・意味?」
「今までは、学校に行けば会うこともできた。そうじゃなくてもゲーセン行けば、まぁ会うこともあったろ」
「まぁ・・・」
「でも卒業したらそれもなくなる」
「・・・何でだ?」
「俺は大学に通いながら親の仕事を手伝うし、てめえは家の見習いとして動くんだろ?」
「おう」
「そうなればお互い、高校の頃みたく暇な時間はなくなる。町で会うこともない」
「・・・・・・それが、何か問題あるなのかよ」
「ある」

即答だった。

「毎日顔を合わせられないのだって有り得ねぇのに、卒業したら神崎の声を聞くことも姿を見ることも話すことも触れることもできない。そう思うと監禁するしかなかった」
「・・・何で」
「神崎のことが好きだからだよ」

そう言って、姫川は片膝をベッドの上に乗せ神崎に近付く。そっと頬に触れて優しく撫でた。神崎は小さく肩を震わせたが抵抗はしなかった。何を考えているか分からない眼でじっと姫川を見ている。

「好きだから、離れたくないと思った。会えないなんて耐えられなかった」

ぎゅっと神崎を抱き締める。

「お前が何と言おうと、もうこの部屋から出さない。ずっと、この部屋で俺と居よう。飯も風呂も娯楽だって用意してやる」
「・・・・・・」
「だから、ずっとここで暮らそうな・・・」

姫川は、満面の笑みでそう囁いた。

その日、姫川によって食事を食べさせられ風呂にも入れられた神崎は、姫川に後ろから抱きしめられて眠った。













「おはよう、神崎」

朝、姫川に起こされ目を覚ますと額に軽くキスをされた。

「・・・・・・ん」

今日も異常な状況だが、相変わらず神崎はボーっとただ姫川を見るだけだった。
朝食も昼食も昨日と同じよう、姫川の手で与えられる。まだ大学も始まっていないので、昼食後は姫川に抱えられながらテレビを見た。





「なぁ、神崎?」

テレビを見ていたら、突然姫川が声をかけた。神崎は無言で後ろを振り返る。

「お前、何で抵抗しないんだ?」
「・・・え」
「俺が言うのもなんだが・・・、もっと暴れると思ってたんだけどな」

姫川はそう言いながら神崎のつむじにキスをした。それにも、神崎は大して反応しない。姫川は嬉しい反面、神崎の心情が分からなく複雑な気持ちだった。


「神崎は、嫌じゃねぇのか?」

監禁している本人が訊くのもおかしいが、監禁されている神崎も大概おかしい反応を見せた。

「・・・・・・分からねぇ」
「分からない?」
「おう」
「・・・何だよそれ」

姫川もさすがに怪訝な顔をする。

「・・・嫌かどうか、って言われると別に、としか言えねぇ。首輪も、正直頭おかしいと思うけど、別に首がしまるわけじゃねーし」
「・・・・・・」
「風呂も、一人で入れるけど・・・まぁ、てめえに洗われるのを拒絶するほど嫌いじゃねーし。キスは鬱陶しいけど」
「・・・・・・」
「だから、正直分かんね。無理やり暴れて危ない目にあってまで逃げたいとは思わねー・・・から」
「俺が神崎を傷付けるようなことすると思うのか?」
「はぁ?男を監禁してる奴のこと信じられるわけーだろ」

そう言って、神崎はここに来て初めて姫川を睨んだ。

「だから、俺からここを出る気はない」
「・・・そうか」
「ただ、」
「・・・ん?」

姫川は神崎の顔を覗き込む。

「この鎖、もっと長くして欲しいってのはある」
「・・・・・・」
「外に出たいけど、出る気はねーからさ。ほとんどベッドにしかいられないのが嫌なんだよ。いちいちトイレ行きたい時もてめえに言うのめんどいしよぉ」
「・・・そう、だな」

姫川は頷くと、どこからか長い長い鉄の鎖を持ってきた。

「リビングとトイレ、寝室を行き来できる長さだ。これならいいだろ」
「・・・おう」
「玄関は必要ねぇし、風呂は俺が入れる」
「・・・・・・」
「もしかしたら、大人しいふりして逃げる隙狙ってんのかもしれないからな。この長さが限界だ」
「ふうん、分かった」
「もし逃げようとしたら・・・まぁ、殺しはしねぇよ」
「・・・・・・そうかよ」

そう呟いて、神崎はまたテレビを見た。姫川はそんな神崎を後ろから抱きしめる。



「愛してる、神崎」


耳元で囁く姫川に、神崎はまた感情の読めない眼差しを向けた。
















なんかよく分からない話になってしまった。・・・あれ?(苦笑)

とりあえず、姫→神です。神崎くんが無気力、なのかな。
もっと上手く書ければなぁ・・・。





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