俺は一度だけ深呼吸をした。





「俺は、ずっと気になってたんだ。何で俺の部屋に来るとお前の雰囲気が柔らかくなるのか。何で夏目や城山には甘えたりしないのか。何で俺なのか」
「・・・・・・」
「部屋に来ると甘えてくるのは、酒のせいなら分かる。だけど、お前は酒を飲む前からどっか別人みたいになるし・・・。別に困らないからあんま考えたことなかったけど、よくよく考えればおかしいよな。酒癖じゃねーんなら、意図的に、自分で切り替えてるってことになる」
「・・・・・・・・・・・・」
「てめえでも、無意識だったのかもしれねぇ。だから・・・強くは言えねぇけど、お前は自分で・・・・・・俺を選んだ、ってことだ」
「・・・え、らん・・・だ・・・・・・?」
「まぁ、選んだってのは大げさかもしんねーけど」

言ってて恥ずかしくなり、小さく咳払いをする。

「まぁ選んだってのは置いといて、やっぱり俺が一番気になるのはてめえが初めて来た時から俺に甘えてきたことだ」
「・・・・・・」
「お前は覚えてないって言ったけど、やっぱり変だろ?今までろくに話したこともない、殴り合いのケンカしかしたことねー奴に甘えるって」

そう言って神崎を見ると、気まずそうに目を逸らされた。

「酒癖なら納得だけど、夏目が違うって言うし」
「は?夏目に聞いたのか!?」
「あ、いや、ホテルに泊まってた時言ってたんだよ。てめえ寝込んでて覚えてないだろうけど」
「・・・そうなのか」

思わず夏目の名前を出してしまった。危ない危ない。何とか誤魔化せてよかった。嫌な汗をかきつつ話を続える。

「だから、俺は考えた。何で神崎は俺にだけ甘えてくるのか。何で、あの日俺に電話が来たのか・・・」
「あれは、間違って・・・」
「あぁ、言ってたな」
「なら・・・っ」
「まぁ聞けよ。・・・お前、スマホの電話帳開いてみ?」
「あ?」
「いいから」

神崎は首を傾げながらもスマホと取り出し電話帳を開いた。その画面を見て、俺はやっぱりと頷く。

「ほら」
「? 何だよ」
「これ、ナ行とハ行の間。けっこう登録されてるだろ」

神崎の電話帳には学校の奴らの外、多分家の人達のだろう連絡先が登録されていた。ナ行とハ行は隣だ。もしその行に夏目と俺しか登録されてなかったんなら、間違え電話をしたのも理解できる。だが、神崎の電話帳には、夏目と俺の間にもそれなりの人数が登録されていた。
この数の中、俺に間違い電話をするってのは確率的に低い。
そう神崎に告げると、黙って下を向いた。言い返す言葉が出てこないんだろう。


「・・・まぁ、有り得ないってことはないのかも知れないが、やっぱりおかしいだろ?」
「・・・・・・」

神崎はコクリと小さく頷いた。
そこで、俺は夏目と話したことを思い出す。今からのは、あいつと話したことで俺の中に浮かんだ一つの仮説だ。それを拒むかどうかは、神崎しだい。







「酔ってたのは本当だ。だけど・・・お前は無意識に俺を選んで電話をかけたんだ」
「・・・・・・え」
「もちろん、これは俺の仮説だ。でも、俺はそう思った」
「・・・何で」
「・・・いいか、仮説だぞ?」
「おう」
「お前は・・・少なくとも俺に好意を持っている。だから間違い電話を装って俺に電話をかけた。初めっから甘えてきたのもそのせい、ってことだ」

合い間に何か言われないよう一気に言い放った。言っていて、それなりに勇気がいる。一歩間違えばかなり自意識過剰な話だ。いや、それなりに核心があって言ってるんだが。
神崎は俺の話を訊いて、驚いたのか呆れたのか口を開けたまま呆けている。声をかけようと口を開いた時、神崎が小さく呟いた。

「・・・こう、い?こうい、って好意・・・だよな?え?俺が?姫川を?・・・・・・へ?」
「か、神崎?」
「え・・・俺、が・・・姫川を?・・・・・・す、す、す・・・っ!?」
「おい・・・」

予想以上に混乱してる様子に、俺は逆に落ち着いてくる。恥ずかしいことは恥ずかしいが、俺より神崎の方が精神的ダメージを受けているらしい。


「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ・・・っ!!」
「お、おう」

焦っている神崎に少し苦笑する。それがバカにされたように感じたのか、神崎がキッと睨んできた。頬が少し赤いので全く怖くないが。

「何笑ってんだ!」
「いや、おも、・・・かわいくって」
「かわ・・・!?」

面白いと言いかけて止めた。どっちも本音だしな。かわいいという言葉に、更に赤面する神崎。あぁ、やっぱりかわいいな。

「・・・つーか!お、俺は別にてめえのことなんかっ」
「神崎」
「・・・っ」
「言い忘れてたけど、俺はお前が好きだ」
「・・・・・・はぁ!?」

俺の告白に、神崎は目を見開き大げさに後ずさった。目を泳がせながら口を何度も開閉するが言葉が出てこないらしい。
本当はここで言うつもりじゃなかったんだが、神崎に言うだけ言って自分の内を明かさないのはフェアじゃない気がして、気付いたら告白していた。


「だから俺は、てめえに甘えられるのが嬉しいし、あの間違い電話があって良かったと思ってる」
「・・・・・・」
「別に、てめえに不快感とか嫌悪感を感じてこういう話をしてるんじゃないってことだけは、分かって欲しい」

そう言って神崎の手を取る。ビクリと肩を震わせたが、俺の手を振り払うことはしなかった。

「今話したのは、俺の想像だ。だからお前が違うって言えば・・・そうなる」
「・・・・・・」
「考えがまとまらないなら、今すぐじゃなくてもいい。一度、考えてみてくれ」
「・・・・・・・・・・・・」

そう言って手を離す。神崎の様子を窺うと、さっきまでより真剣な表情をして黙りこくっていた。これは、考えてくれているんだろうか。期待しつつ声をかける。

「・・・帰るか?」
「え、」
「・・・今日は酒飲む気分じゃねーだろ?俺としても、話するために呼んだだけだったしな」
「まぁ・・・そうだけど」
「いや、居てくれるのは嬉しいんだけどよ」
「・・・・・・」
「一人の方が、考えがまとまるかと思ってな」
「それは、確かに」

そう言って神崎は下を向いた。俺はそっと、頭を撫でてみる。神崎は驚いて勢いよく顔を上げた。

「な、何だよ!」
「いや、俺が言うのも何だけど・・・。あんま思いつめんなよ。困らせたいわけじゃないんだからな」
「・・・・・・っ」

言いながらまた頭を撫でると、神崎は真っ赤に頬を染めて立ち上がった。

「神崎?」
「か、帰る・・・っ」
「そ、そうか。・・・あ、気を付けて帰れよ」
「〜〜〜っ!じゃあなっっ」

そう言って乱暴に鞄を取ると、神崎はバタバタと慌ただしく出て行った。玄関が締まる音がする。
何でああも慌ててたのかは分からないが、どうやら話したことを考えてはくれるらしい。時間はかかるかもしれないけど待とうと思った。

できれば、俺の思い違いにならず、受け入れて欲しいと思いながら・・・。
















一週間後、神崎からメールで連絡があった。内容は、今度の休みに家に行ってもいいかという物。多分、神崎なりに考えがまとまったんだろう。あっちから誘ってくることなんて今までなかった。
俺はもちろんOKの返事を送る。神崎の返事がどうであれ、久しぶりに二人で飲めるのは楽しみだ。



「新しい酒、買っておくか」




あいつ好みの甘い酒を用意してやろう。

神崎のことを思うと、自然と口元が綻んだ。












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