酔った神崎をおいて、酒を取りに来たはいいが・・・。さっき自分の中に浮かんだ感情の名前が俺の心を荒立てる。愛しい・・・とかなんとか思った気がするが、俺が?神崎を?いやいや、気のせいだろ。糸欲しいとかの間違えじゃね?うん。そういやボタンが取れてたんだよなぁ、あはははは。


「・・・バカじゃねーの!?」

自分で自分に突っ込む。面白くも上手くもねーよ!うわー、何だこれ。自分で話ややこしくしてどうするんだよ。
頭を抱えながらも酒を選ぶ。どんな顔して帰ればいいんだ。神崎の顔を真面に見れる気がしない・・・。重い体を引きずって部屋に戻る。

「・・・はぁ」

ドア開けたくねぇ。ため息を吐きつつドアノブを握る。それでも、大きく深呼吸をしてドアノブを回した。

「待たせたなー」

そう言って部屋に入っても、返事が返ってこなかった。あんなに酒を楽しみにしてたんだ。遅いと文句の一言くらいあると思ったんだが。部屋を見渡すと、リビングで酒を飲んでいたはずの神崎は床に寝転んで眠っていた。

「・・・・・・何だよ」

酒を待ってる間に眠っちまったのか。神崎にどんな顔をしていいのか迷っていた俺には丁度よかった。自分を情けないと思いつつ、ホッとして肩の荷が下りる。
神崎はだらしなく口端から涎を垂らしながら幸せそうに眠っていた。寝顔までガキっぽくて少し笑う。床でそのままもかわいそうだから寝室まで連れてってやろうと神崎の背中と膝裏に手をさし入れる。さすがに意識を失っている男を運ぶのは少しふらついたが、寝室に運ぶくらいはできる。ベッドに降ろして布団をかけてやると、ぎゅっと両腕で布団を抱き締めた。

「・・・・・・っ!」

そのどうってことない仕草に、俺の心臓が急に締め付けられたように痛んだ。これが胸きゅんってやつなのか。自分で考えておいてキモいが、かわいいものは仕方がない。くそ、神崎がかわいい!

「う〜、ん・・・」
「!?」

突然神崎が唸ったので起きるかと思ったが身動ぎしただけで、神崎はまた布団に顔を埋めた。意味もなくビクビクしてしまった。起きたら起きたで別にいいのに。

「・・・何だかなぁ」

神崎への気持ちを自覚した途端、心臓が落ち着かない。このままでは、やっと二人のいざこざがなくなったのに、俺が神崎を避けてしまいそうだ。それは嫌だ。
神崎の寝顔をもう一度眺めて、気付いたら頭を撫でていた。眠っているのに、嬉しそうに少し笑う。それを見て、俺の頬も緩んだ。

「俺も寝るか」

寝室を出て、放置された酒やつまみを片付ける。その後自分も寝るために、別室に向かった。















次の日、目が覚めた神崎と普通に遅めの朝食を食って、次の約束をして別れた。
昨日あんだけ一人でテンパってたのに、一回寝たら頭もすっきりしていて、神崎に変化勘違いをされることもなかった。ただ、自分の気持ちの変化だけは寝て起きても撤回することはできないみたいだ。

変わったことと言えば、俺の神崎への対応くらいだろうか。酒を飲んでいる時、神崎が甘えてくるから俺も自然に対応が優しくなっていた。だが、今ではそうじゃない時も、ついつい神崎を気にかけ世話を焼こうとしてしまう。夏目達に変に思われると面倒なので、自分の行動を自覚してからは一応やり過ぎないようにはしている。
だが、好きと自覚した相手をかまいたくなるのは仕方がないだろう。





「神崎ー」
「んぁ?」

昼休み、屋上で一人だらけてる神崎を見付け声をかける。

「姫川、か」
「よぉ。・・・夏目と城山はどうした?」
「教室」
「ふうん?」

一緒じゃねーのか、と頷きつつ少し距離を取り隣に座った。神崎はそんな俺を訝しむように見つつも好きなようにさせた。神崎も、俺の変化に気付いているだろう。いくら鈍くても、さすがに分かるだろうくらいの行動はしてる。多分、きっと。

「姫川ってさぁ」
「あー?」
「・・・・・・んー」
「んだよ」

珍しく口籠る神崎に俺は首を傾げる。

「いや、最近・・・なんか変だと思って」
「変?」
「おう」
「どこが」
「あ゛ー、何か俺・・・の世話、ってか、かまう所とか?」

ほら、やっぱり気付いてた。

「嫌かよ?」
「嫌、じゃねーけど。違和感?」
「何で疑問系」
「だって、いきなりだし、意味分かんねーから」
「・・・ふーん」

まぁ、そうだろうな。学校でそんなからまない、しかも口を開けばほぼケンカしてた奴がいきなり優しくなったら混乱するだろ。
嫌ではない、ってだけマシか。

「知りたい?」
「は?」
「理由だよ、理由。大したことじゃねーけどよ」
「・・・・・・」
「神崎?」
「あー、そう」

神崎が何か言いかけた時、ぐーるぐると気の抜ける音楽が流れた。もちろん俺じゃない。神崎の携帯からだ。尻ポケットから携帯を取り出して、神崎は携帯を耳に当てた。どうやら電話らしい。

「あ?もしもし?・・・・・・は?知るか。屋上だ、バーカ」

相手は誰か知らないが、悪態をついている。

「はぁ?サボりじゃねーよ。今は昼休みだろ。・・・・・・あ?城山が?・・・あー、分かった分かった。教室行けばいいんだろ!うっせーよ、夏目」

どうやら電話の相手は夏目らしい。まぁ、神崎の携帯にかけるなんてあいつくらいか。城山は携帯持ってねーらしいしな。

「・・・?・・・・・・ん?あぁ、そうだけど?姫川?・・・おう、ん、いるぞ。何だよ、姫川にも用があんのか?ない?じゃ、訊くなや!」

そう怒鳴って神崎は電話を切った。
こいつ電話でもこんな叫んでのか。忙しない奴。


「・・・夏目か?」
「おう。教室来いってよ」
「へー、神崎いなくて寂しくなったんじゃね?」
「はぁ?気持ち悪いこと言うな!あいつらがそんなたまかよ」
「城山なんて、てめえの母親みてーじゃん?夏目はともかくとして」

そう笑うと、神崎は眉を顰めながらも考える素振りをした。

「母親、ねぇ・・・」

神崎も納得する所があるのか否定はしなかった。

「で?行かなくていいのか?」
「あぁ、そうだった」

立ち上って、神崎は尻の砂を軽く払う。じゃあな、と言って屋上から出て行った。その後ろ姿を見て、俺は少し安堵する。もし、あのまま理由を訊かれていたらちょっと焦ってた。今理由を言っても、神崎にまた避けられるかもしれないからな。

「次に避けられたら・・・さすがに凹むなぁ」

恋愛感情を自覚した後避けられるのはつらい。しかも、本当に誰かを好きになったのなんて初めてだ。初恋で大きな傷をおいたくはない。というか、むしろ初恋を実らせたい。



「・・・とりあえず、ヨーグルッチでもやってみるか」

そう独り言を言って、神崎が出てったドアを見詰めた。












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